賢者の石 | ナノ

▼ 13


悪夢の魔法薬学の授業を終え、ハリーとロンは少し先に歩いている彼女を追いかけた。
隣にはあのマルフォイとその腰巾着、他のスリザリン生もいる。
ハリーとロンは顔を見合せて苦々しく顔を歪めたが、小さく頷いて足を速めた。

「ラピス!」

呼ばれた彼女はゆっくりと振り返り、二人を見て少し目を見開いた。

「ハリー、ロン……」
「何か用かい?名ばかりの英雄ポッター君とお古とそばかすだらけのウィーズリー君」
「っ!!」

ドラコと取り巻きのスリザリン生が嘲笑う。
彼に掴みかかろうとするロンを、ハリーが止める。

「マルフォイ、君に用はない。ラピス、少し話せるかい?」
「……ええ」

ハリーの言葉に、ラピスは頷いた。
ローブのポケットに入れたままの包みが、かさりと音を立てた。

「ポッターお前、」
「ドラコ、」

ドラコが何か言おうと前に出たが、ラピスが彼を呼んだ。

「…何だい?」
「先に行っていて」
「っ、そう言うわけには」
「行って」
「……分かった。行くぞ」

ドラコは引き下がらなかったが、彼女の有無を言わせない口調と視線に折れて、取り巻きを引き連れてその場を後にした。
邪魔者がいなくなったところで、三人は廊下の隅に移動した。

「さっきは…ありがとう」
「いいえ、お礼なんて良いの。貴方は悪くないもの」
「……えっと、元気?」

ハリーが言葉を選びながら聞く。
聞きたいことは沢山ある。
けれど、それを聞いて良いのか、何を言ったら良いのか分らない。
けれど、どうしても話しがしたかった。

「ええ、まぁ……」

ラピスは曖昧に答えた。
どこか重い空気が流れる。
隣のロンも複雑そうな顔をしている。
通り過ぎる生徒はひそひそと囁き合って、三人を見ている。
ハリー・ポッターとミリアム家の生き残りが、しかもグリフィンドール生とスリザリン生が共にいることは、彼等の興味を掻き立てた。

「ちょっと聞いても良い?」
「何かしら、ロン」
「ラピス、君は……どうしてスリザリンになったんだい?」

ロンはつっかえていたものを吐き出すように言って、きゅっと拳を握った。
それは、ロンもハリーも、皆が聞きたかったことだ。
一度はグリフィンドールに組分けされかけたものの、どういうわけか彼女はスリザリンになってしまったのだから。
周りの生徒は、三人の会話を耳を澄まして聞いている。
気付けば、ロンの少し後ろの方でハーマイオニーが心配そうに此方を見ている。
ラピスが口を開き、周囲がごくりと唾を飲んだ。

「私の家系が皆スリザリンだったから。唯、それだけ。私の家系がグリフィンドールだったらその色の制服を着ていたわ。それだけのことよ」
「……なんだぁ」

ハリーとロンは、安心したように溜息を吐いた。

「僕……君が僕達と一緒は嫌なのかと思ったんだ」
「そんなわけないわ」

ハリーの言葉をラピスは"とんでもない"、と否定する。

「寮が違っても友達って思っていても良いかしら……?」

ハーマイオニーが駆け寄って来て、遠慮がちに聞く。

「君、いつからいたの?!」

ロンが眉を顰める。

「さっきよ。貴方に話しをしに来たんじゃないわ。ラピスが見えたから……」

ハーマイオニーがつんと言って、ラピスに視線を戻す。

「貴方達さえ良ければ、これからも友達でいてくれないかしら……?」
「悪いもんか!」
「ああ、良かった!」
「ありがとう」

ロンが嬉しそうに笑って、ハーマイオニーが飛び上った。
ラピスがハリーを見ると、彼はにっこりと笑った。

「君は僕の初めて出来た友達で、これからもずっとそうだよ」
「ありがとう、ハリー」

重苦しい空気が吹っ飛び、ラピスも微笑んだ。

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