賢者の石 | ナノ

▼ 09(02)


向こう岸の高い山のてっぺんにある壮大な城を見て、感嘆の声を上げる生徒達。
ラピスは城を見上げ、ペンダントをきゅっと握る。

「四人ずつボートに乗って!」

ハグリッドの指示が飛び、生徒達はボートに乗り込む。

「ねぇ、私も良いかしら」

後ろから声がしてラピスが振り向くと、豊かな栗色の髪の少女がいた。

「一緒のボートに乗っても良いかしら?」
「ええ、どうぞ」

彼女は何故か興奮気味だ。
ハリーとロンは、既に彼女と知り合いのようだ。

「私、ハーマイオニー・グレンジャー」
「ラピス・ミリアムよ」

女の子に自己紹介をするのは男の子にするよりもまだ気が楽だが、先程のロンのようにこの子も騒ぎ出すのではないかと少し身構える。

「私、アレキサンダーのことが載っている本は殆ど読んだわ」

ハーマイオニーは鼻息荒く言った。
先程の会話が聞こえていたのだろうか。
彼女は少し威張った話し方をする子だ。
ハリー、ロン、ハーマイオニー、ラピスの四人は同じボートに乗り込んだ。
ハグリッドの掛声で、ボートは湖を滑る様に進んで行く。
ボートに乗ったことのないラピスは、思わずボートにしがみ付く。

「とても偉大な人よね。貴女は…彼の子孫なのよね?色々な本を見てみたけど、ミリアム家の血縁関係の事は何処にも載ってなくて……」
「……ええ」

ハーマイオニーが興奮気味に話すのに対し、ラピスは静かに答える。

純血の旧家にとって、家系図は家宝のようなものだ。
しかしミリアム家の家系図は、ミリアム家の屋敷にも歴史上の書物にも、何処にも記されていない。
そのことを、ラピスは不思議に思っていた。
しかし、先祖の名前は全て知っているし、綴りさえも間違えない自信がある。
何故なら、物心が付いた時から家系図はしっかりと頭の中に入っていたからだ。

「すごいわ!」

ハーマイオニーが瞳をキラキラさせる。

「ああ、そんなすごい人と友達になれるなんて!」

ハーマイオニーは、既にラピスを友達だと思っている。
彼女は握手を求めて、握ったラピスの手をぶんぶんと振った。
ラピスは彼女の勢いに圧倒されている。
ロンが「ご愁傷様」と憐れみを含んだ表情で呟いた。
そんな彼を見て、ラピスは首を傾げる。
初めて出来た女友達。
少々つっけんどんな部分もあるが、とても真面目そうで、笑顔が魅力的で可愛らしい。

船着き場に到着し、ボートを降りる。
皆が下船しハグリッドがボートを調べている。

「ラピス、」
「?」

ラピスが声のする方に振り返ると、声の主は心配そうに此方を見ていた。

「大丈夫?さっき、少し辛そうだった」

"さっき"とは、両親の話しの時だろう。
彼を心配させる程、私はそんな表情をしていたのだろうか。

「ありがとう、ハリー。私は、大丈夫だから」

ラピスは柔らかく微笑み、ハグリッドの後を付いて行く生徒達に加わった。
無意識のうちにペンダントをきゅっと握り、唇を噛み締めた。


09 私は大丈夫だから(きっと、そう自分に言い聞かせていた)

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