「ごめんなさい、約束があるの」
――勿論、約束等ない。
遅くに列車に乗った為、コンパートメントも空きがないだろう。
ハリー達は何処にいるだろう。
彼等を探そうとトランクの取っ手を握り直す、が――
やめよう。
ラピスは、少し開けた通路のスペースに荷物を置いて壁に寄りかかった。
汽車が発車して、ホグワーツが遠くなって行く。
――どうして良いのか分からなかった。
彼等といたい。
それと同時に、彼等を危険にさらしたくないという想い。
「――ラピス?」
穏やかな低音が背中に投げかけられた。
この声は――。
彼女が振り返ると、そこにはセドリックと彼の友人と思われる男子生徒が立っていた。
「久しぶりだね」
「…ええ、ごきげんよう」
テストや賢者の石の件があった為、彼と会うのは久しぶりだ。
「コンパートメントが空いてなかったのかい?」
「…ええ」
特に探し回ったわけではないけれど。
「だったら僕等のところに来ない?ずっと立っていては疲れるよ」
彼がそう提案すると、隣の友人が驚いたような表情をした。
「遠慮しておくわ」
彼女が即答すると、セドリックが小さく吹き出した。
「何かおかしなこと言ったかしら……」
「否、君らしいなと思ってね」
くすりと笑うセドリックを、ラピスは不思議そうに見る。
「僕達男が座っていて、レディの君をこんな所に立たせておくわけにはいかないよ。ほら、すぐそこだから行こう。良いだろうダスティ」
「ああ、勿論」
「あ、」
セドリックとダスティと呼ばれた友人にトランクと荷物を取り上げられて、ラピスは彼等に着いて行くしかなくなってしまった。
仕方なく彼等のコンパートメントに入ると、そこにはもう一人の男子生徒がいた。
「わーお!誰が口説いてきたんだ?」
「やめろアルノルト、口説いてきたんじゃない」
感嘆の声を上げるアルノルトと呼ばれた友人に、セドリックがすかさず否定をする。
「そうだ、ミリアム家のご令嬢に無礼なことを言うな」
ダスティが冗談交じりに言った。
セドリックの隣に座り、軽く自己紹介をし合った。
「まさかセド、ミリアム家のご令嬢と知り合いとは思わなかったぜ」
「寮も違うし学年も違うのに何処で会ったんだよ」
「図書館だよ」
「ふーん。で、何で今まで黙ってたんだ?ん?」
「言う機会がなかっただけだ。彼女は唯でさえ有名だし、僕の軽はずみな行動で迷惑をかけたくない」
にやにや顔で問いただす2人に、セドリックは動じない。
ラピスは興味なさそうに窓の外を見ている。
初対面の二人が正面にいると落ち着かないのだ。
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