賢者の石 | ナノ

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「それ、絶対におかしいわよ」

ハーマイオニーが鼻の穴を膨らまして言った。

「そうね……」

学年末パーティーの翌日の、生徒達が帰省する日、試験の結果が発表された。
学年トップだったハーマイオニーは一目散にラピスの元にやってきた。
不思議に思ったのだ。
勿論トップを目指していたのだが、ラピスが自身よりも優秀であることを彼女は熟知している。
ラピスの成績表を見て、ハーマイオニーは目を見開いた。
上位は上位だが、ラピスの能力では考えられない程の順位だったのだ。

「何かの間違いだわ」

足を引っ張ったのは魔法薬学だった。
それだけが悪い為に、ラピスは成績が悪かった。
実技と筆記のうち、実技の点数が殆どない。
しかし、ラピスは"忘れ薬"を完璧に完成させた。
それでも半分以上減点されたのだ。
ラピス自身も何故だか分からない。
スネイプ教授のコメント欄には、「混ぜ方が雑」だとか「薬草を入れるタイミングがおかしい」等、こじつけたような事が書いてある。
――分からない。
確かにスネイプ教授のことを考えていて集中していなかったかもしれないが、薬の出来は完璧だった。
何故減点される必要があったのだろう。
避けるように、決して目を合わせないスネイプ教授。
そうか、そこまで私は嫌われているのだ。

「抗議するべきよ!」
「良いのよ」
「だって貴女の"忘れ薬"は完璧だったわ!それなのにこんな点数だなんて……」

まるで自分の事のように怒る彼女に、ラピスは嬉しさが込みあげた。

「ありがとう、ハーマイオニー。でも良いのよ。筆記で補えたから来年も魔法薬学は受けられるから」
「でも――」

ハーマイオニーはまだ何か言いたげな表情だったが、ラピスがあまりにも冷静だった為に開けた口を悔しそうに閉じた。

"わしが頼まずとも、あやつは君の為に薬を作っていた"

スネイプ教授は何を考えているのだろう。
嫌われていることは間違いないだろうけれど、アルバスの言葉を思い出すと他にも理由があるのではないかとも思う。
聞いたところで彼が答えてくれるとは思えない。
実技の点数はともあれ、筆記の満点のおかげで来年も魔法薬学は受けられる。
彼の機嫌を損ねてスリザリンが減点されても困る。
ラピスは成績表を折り畳んだ。

ハーマイオニーと別れて帰省の準備を再開する。
"能力に頼った魔法"によって、部屋の荷物は次々にトランクへ詰め込まれていく。
ラピスは"休暇中魔法を使わないように"という注意書きを見て小さな溜息を吐いた。
今まで何も考えることなく"能力に頼った魔法"を使っていた為、これからは不便になりそうだ。

「先に家に帰っていて」

鳥籠の中で不満そうに嘴をかちかち鳴らすアンバーを窓から放った。
部屋の外が騒がしくなる。
そろそろ生徒達はホグワーツを出て汽車に乗り込む時間だ。
こつこつとノックの音の後、可愛らしい少女の声が聞こえた。

「行きましょう、ラピス」
「まだ荷造りが終わっていないの。先に行っていて」
「そう、遅れないようにね」

混雑する中を歩くのはごめんだ。
暫く時間をおいて、ラピスは部屋から出た。

「ラピス……」

談話室のソファに、浮かない表情のドラコが座っていた。
向かいのソファにはクラッブとゴイルも座っている。
ラピスを待っていたようだ。
荷物を持って寮を出る。
が、ドラコは口を開かず、沈黙が続く。

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