賢者の石 | ナノ

▼ 36(2)


「困るなぁ、ハリー」
「僕等のラピスにそんなことしちゃあ」

聞き覚えのある声が聞こえて、ハリーは慌ててラピスを離した。

「フレッド、ジョージ」

にやにや顔で、何やら大きな包を持って歩いて来た双子は、ラピスに近寄る。

「お目覚めかい、お姫様」
「無事で良かった、心配したんだ」

伸びてきた手が、彼女の黒髪をくしゃくしゃ撫でた。

「心配、してくれたの……?」
「当たり前さ」
「愚問だよ全く」

彼女の小さな問いかけに、双子は大袈裟に驚いてみせた。

「――ありがとう」

ラピスが微笑むと、双子はもう一度彼女の頭を撫でた。

「そこで、僕達から退院祝いだ」

先程から気になっていた大きな包み。
差し出されたそれをラピスは不思議そうに受け取った。
楕円型で、少し重さもある。

「ぶっ!」

そこで、突然ハリーが吹き出した。

「何よ、ハリー」

笑いをこらえている彼を見て、ハーマイオニーが怪訝そうな顔をする。

「ハリーにも送ったんだ」
「ほら、開けてみろよラピス」
「え、ええ」

言われるがままに包み紙を剥がしていく。

「っぷ、ふ、はははは!」
「あははははは!」

次はロンが吹き出した。
ハリーと一緒に腹を抱えて笑い出し、ハーマイオニーは"理解出来ない"と首を振った。

「これ……」

漸く中身が見えて、ラピスは目を丸くした。
楕円で、真ん中に穴が開いていて、ピンクで、プラスチックで出来たそれは――

「ふふっ、ふふふふふふ」

ラピスの中で、今まで考えていたことが一気に吹き飛んだ気がした。
贈り物も、贈ってきて双子の"どうだと言わんばかりの"表情も、こんな馬鹿けたことを考え付いたことも、ハリーとロンがとうとう膝を付いて笑っていることも、ハーマイオニーまで大笑いを始めたことも。
全部おかしくて、おかしくて堪らない。
――嬉しくて堪らない。

「とっても嬉しいわ、ありがとう」

笑いながらラピスが言うと、フレッドとジョージも堪らず吹き出した。

「ハリーにはフィルチの事務室の向かいのトイレのをやったんだ」
「フィルチのケツの菌がたっぷり」
「うえぇっ」
「あれはマダム・ポンフリーに没収されちゃったよ」
「そこは何が何でも阻止するべきだろう、ハリー」
「心配するな、ラピスのは誰も使ってない三階の女子トイレのだ」

この人達が好きだ。

「良かった、ラピスが笑ってくれて」

とても好きで、とても大切だ。


36 陽だまりの条件(ねぇ、どうしたら良いと思う?)

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