賢者の石 | ナノ

▼ 36


「ラピス!」

――デジャヴ。
名前を呼ばれて振り向いた瞬間、またもふわりと包まれた。
ローブを着た後、スネイプ教授が作ってくれたという、誕生日の時と同じ薬を飲み干し、寮に戻ろうと医務室を出た時だった。
ふわふわの髪の毛が頬に当たる。
清潔だが、少し甘い香り。
細身の柔らかな身体。
母以外の女性に、初めて抱き締められた。

「ハーマイオニー、」
「っ、良かったっ!」

涙声で、彼女は言った。
彼女に抱き締められながら、彼女と一緒に来たハリーとロンに曖昧に微笑む。

「心配したわ、とっても心配したの」

漸く離れたハーマイオニーは、鼻をぐずぐずさせながら言った。

「ハーマイオニー……」

彼女がこんなにも心配してくれていたなんて……。

「良かった、無事で何よりだよ」

ロンが微笑んだ。

「ラピス……」

ハリーが彼女に近付く。

「ハリー……」
「――守ってくれて、ありがとう」

彼女の手を、ハリーが包む。
彼女もその手を握り返した。

「貴方が無事で、本当に良かった」

ハリーが無事で、元気で、良かった。
彼が微笑むと、私の頬まで緩む。

「でも、まさかラピスが捕まっていたなんて思わなかったわ」

ラピスの身に何が起こったのか、ロンとハーマイオニーは聞きたがった。
ロンもハーマイオニーもそれぞれ活躍したようだ。

「ハリーの予想が当たってた。でも何でクィレルは君を?」
「私にも、よく分からないけれど…ハリーと仲良くしていて邪魔だったのでしょうね」

ラピスとハリーの視線が重なった。
アルバスは、ハリーにどこまで話したのだろうか。
私も知らないことだらけなのだから、ハリーに聞かれても分からないのだけれど。

「ラピスは本当に勇敢だったんだ。ラピスがいなかったら僕は……」
「違うわ、私は何もしていない。"賢者の石"を守ったのは貴方よ、ハリー」

相変わらず謙遜ばかりしている二人を見て、ロンとハーマイオニーが顔を見合わせて笑った。

この先、ハリーの近くにいたら、私の所為で巻き込んでしまうことがあるかもしれない。
ロンもハーマイオニーも、危険な目に遭わせてしまうかもしれない。
しかし私は、彼等の傍が――、
心地良くて、嬉しくて、温かくて――。

「あなた達、本当に仲が良いわね」

ハーマイオニーに言われ、ラピスとハリーは顔を見合わせる。
こんな風に嬉しそうに、楽しそうに笑われると、どうしたら良いのか分からなくなる。

「だって、僕達――友達だから」
「っ、」

と頬を染めて笑うハリーを、ラピスは思わず抱き締めた。

「――友達よ、ハリー」

ぎょっとしたハリーの耳元で、彼女はそっと囁いた。
確かめるようなその言葉は、何故か悲しみの色が混じっていた。
しかし、ハリーは気が付かない。
頬を更に赤くしてこくんと頷くと、ぎゅっと彼女を抱き締め返した。

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