「ラピス!」
――デジャヴ。
名前を呼ばれて振り向いた瞬間、またもふわりと包まれた。
ローブを着た後、スネイプ教授が作ってくれたという、誕生日の時と同じ薬を飲み干し、寮に戻ろうと医務室を出た時だった。
ふわふわの髪の毛が頬に当たる。
清潔だが、少し甘い香り。
細身の柔らかな身体。
母以外の女性に、初めて抱き締められた。
「ハーマイオニー、」
「っ、良かったっ!」
涙声で、彼女は言った。
彼女に抱き締められながら、彼女と一緒に来たハリーとロンに曖昧に微笑む。
「心配したわ、とっても心配したの」
漸く離れたハーマイオニーは、鼻をぐずぐずさせながら言った。
「ハーマイオニー……」
彼女がこんなにも心配してくれていたなんて……。
「良かった、無事で何よりだよ」
ロンが微笑んだ。
「ラピス……」
ハリーが彼女に近付く。
「ハリー……」
「――守ってくれて、ありがとう」
彼女の手を、ハリーが包む。
彼女もその手を握り返した。
「貴方が無事で、本当に良かった」
ハリーが無事で、元気で、良かった。
彼が微笑むと、私の頬まで緩む。
「でも、まさかラピスが捕まっていたなんて思わなかったわ」
ラピスの身に何が起こったのか、ロンとハーマイオニーは聞きたがった。
ロンもハーマイオニーもそれぞれ活躍したようだ。
「ハリーの予想が当たってた。でも何でクィレルは君を?」
「私にも、よく分からないけれど…ハリーと仲良くしていて邪魔だったのでしょうね」
ラピスとハリーの視線が重なった。
アルバスは、ハリーにどこまで話したのだろうか。
私も知らないことだらけなのだから、ハリーに聞かれても分からないのだけれど。
「ラピスは本当に勇敢だったんだ。ラピスがいなかったら僕は……」
「違うわ、私は何もしていない。"賢者の石"を守ったのは貴方よ、ハリー」
相変わらず謙遜ばかりしている二人を見て、ロンとハーマイオニーが顔を見合わせて笑った。
この先、ハリーの近くにいたら、私の所為で巻き込んでしまうことがあるかもしれない。
ロンもハーマイオニーも、危険な目に遭わせてしまうかもしれない。
しかし私は、彼等の傍が――、
心地良くて、嬉しくて、温かくて――。
「あなた達、本当に仲が良いわね」
ハーマイオニーに言われ、ラピスとハリーは顔を見合わせる。
こんな風に嬉しそうに、楽しそうに笑われると、どうしたら良いのか分からなくなる。
「だって、僕達――友達だから」
「っ、」
と頬を染めて笑うハリーを、ラピスは思わず抱き締めた。
「――友達よ、ハリー」
ぎょっとしたハリーの耳元で、彼女はそっと囁いた。
確かめるようなその言葉は、何故か悲しみの色が混じっていた。
しかし、ハリーは気が付かない。
頬を更に赤くしてこくんと頷くと、ぎゅっと彼女を抱き締め返した。
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