「はぁ、はぁ、はぁ……」
彼は走っていた。
図書室にも広間にも教室にも寮にもいない、彼女を探して。
女生徒が何度もドアを叩いても、返事はなかったそうだ。
彼女は一体どこに?
直に消灯時間だ。
あと思い当たるところと言えば――
「痛っ!」
「うわっ!」
何かにぶつかり、どすん、と鈍い音を立てて尻もちをついた。
「マルフォイ!」
「ポッター!」
二人はお互いを確認すると目を見開いた。
角を曲がった出会いがしらに衝突したのだ。
「ラピスは何処だ」
何の前置きもなく、ドラコは聞いた。
「君と一緒じゃないのか?」
「とぼけるな。彼女は何処だと聞いている」
ドラコが憎々しげに言う。
「だから、僕も知らないんだ。色々探したけど見付からなかった…だから君のところに行こうかと」
ハリーもまた、ラピスを探しに来たのだ。
ハグリッドの小屋に行った後、石に危険が迫っていることを彼女に知らせに行こうかと思ったが、何処を探しても誰に聞いても彼女はいなかった。
ウィーズリーの双子とリーが昼間に廊下で会ったのが最後のようだ。
どうしても彼女に知らせたくて、不本意だったが、ハリーはスリザリンの寮に向かったのだ。
「本当に知らないのか」
「さっきから言ってるだろう。僕も彼女に用があるんだ」
「じゃあ、ラピスは何処に……」
ずきん、とハリーの額の傷痕に痛みが走った。
その時、森での出来事を思い出した。
頭が割れるかと思うほどの激痛で意識が朦朧とする中、ラピスがヴォルデモートから自身を守るように立ちはだかったのを見た。
ハリーの頭に、嫌な予感が過った。
まさか、ラピスは―――
「っ――!」
「おい!」
突然走りだしたハリー。
ドラコは彼の背中に叫ぶ。
ハリーは足を止め、振り返るとドラコに言い放った。
「彼女は、ラピスは、僕が助ける」
「?!おっおい、どういうことだポッター!」
理解が出来ないドラコ。
駆けだそうとするも、躓いてしまう。
顔を上げると、もうそこにハリーの姿はなかった。
「ラピス――」
静寂の中に、ドラコの声が消えた。
32 群青の不在(まるで僕の心までも、)
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