賢者の石 | ナノ

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図書館には、人っ子一人いなかった。
図書館司書、マダム・ピンスも留守のようで、図書館は静寂だった。
試験が終わった今、ラピスの頭はヴォルデモートと"賢者の石"のことで頭が一杯だった。
試験の結果も、ドラコのことも、頭にはない。
魔法史を"能力に頼った魔法"で呼び寄せ、椅子に座る。

何故、あの森にヴォルデモートがいたのか。
今までずっとあの森に潜んでいたのだろうか?
否、長い期間ハグリッドやアルバスが気が付かないわけはない。
彼はハリーを殺し損ない、酷く弱り、魔力も、肉体さえも失った。
何故動いていられる?
ユニコーンは、決して弱い生物ではない。
美しく、強く、強力な魔力を秘めている。
どうやって彼等を傷付けた?
彼に、傷付ける力があったのだろうか?
どうやって力を取り戻したのだろう。
彼自身にないとしても、他の人間が手を貸したとすれば……?

「――っ!」

背後に視線を感じ、ラピスははっと振り返った。
しかし、其処には誰もいない。
気分が悪い。
背中に寒気が走り、見られているような感覚。
あの時、ハリーの初試合の後、箒に呪いをかけた犯人について話していた時と同じ感覚だった。
ラピスは魔法史を"能力に頼った魔法"で棚に戻すと、足早に図書室を出た。
縋るようにペンダントを握って、勢いよく扉を開け放つ。
何故か誰一人いない廊下は気味が悪く、まだあの視線を感じて、ラピスは無意識のうちに走っていた。

「っ、はぁ、はぁ……」

幻聴だろうか、ぜいぜいと荒く苦しそうな息遣いが耳を掠める。
怖い、怖い――!

「う、はっ、はっ、っ……」

運動不足のラピスの身体は、直ぐに悲鳴を上げ始めた。
走る速度が落ちていく。
どれだけ走っても、廊下は終わらない。
足がもつれて転びそうになる。
嫌だ、怖い、誰か――!

「――『ディアマンテ』」
「っ!!」

ラピスの思考が凍る。
何故、誰が、その名を――……
視界が真っ白になり、そこでラピスの意識は途切れた。
彼女の力の抜けた身体は、彼によって受け止められる。
そして、音も立てずに二人は消えた。

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