「貴女も、やはりとても勇敢なのですね」
ケンタウルスが青い目でラピスを見た。
「……も、とはどう言う意味かしら」
「貴女の一族の事です。その中でも特別な――。さあ、早くハグリッドのところに戻った方が良い。今、森は安全じゃない……特に君達はね」
彼は最後まで話すことをしなかった。
そして、まだぐったりとしているハリーを背中に乗せた。
その時、ロナンとベインという二頭のケンタウルスが現れた。
ラピスを見て、彼等は目を見開いた。
助けてくれたケンタウルスは、フィレンツェと言う名前らしい。
ベインは彼の行動に激怒した。
「僕は森に忍び寄る恐怖に立ち向かう。そう、必要とあらば人間とも手を組む」
フィレンツェはきっぱりとそう言うと、木立の中に飛び込んだ。
ラピスもそれに続き、暫く無言のまま歩いた。
彼はきっと、聞いても答えてはくれない。
沈黙に耐えられなくなったのか、フィレンツェの背中に乗るハリーが口を開いた。
「どうしてベインは怒っていたの?君は一体何から僕達を救ってくれたの?」
長いこと沈黙が続いたが、一際木の生い茂った場所を通る途中、フィレンツェが突然立ち止まり、口を開いた。
「ハリー・ポッター、ユニコーンの血が何に使われるか知っていますか?」
「ううん」
ハリーは突然の質問に驚きながらも答えた。
「それはね、ユニコーンを殺すなんて非情極まりないことだからなんです。これ以上失うものは何もない、しかも殺すことで自分の命の利益になる者だけが、そのような罪を犯す。ユニコーンの血は、たとえ死の淵にいる時だって命を長らえさせてくれる。でも恐ろしい代償を払わなければならない。自らの命を救うために、純粋で無防備な生物を殺害するのだから、得られる命は完全な命ではない。その血が唇に触れた瞬間から、そのものは呪われた命を生きる、生きながらの死の命なのです」
「一体誰がそんなに必死に?永遠に呪われるなら、死んだ方がましだと思うけど。違う?」
ラピスは二人の会話を黙ったまま聞いた。
「その通り。しかし、他の何かを飲むまでの間だけ生き長らえれば良いとしたら――完全な力と強さを取り戻してくれる何か――決して死ぬことがなくなる何か。ポッター君、今この瞬間に、学校に何が隠されているか知っていますか?」
ああ、そうか。
「"賢者の石"――そうか――命の水だ!だけど一体誰が……」
ああ、やっぱり。
ラピスはペンダントをきゅっと握った。
彼は――生きている。
死んでなんて、滅んでなんていないのだ。
アルバスやルーシーに聞かなくとも、ラピスは彼が生きていると信じていた。
どうしてか確信があったのだ。
再び震える身体。
冷や汗が背中を伝った。
「力を取り戻すために長い間待っていたのは誰か、思い浮かばないですか?命にしがみついて、チャンスを窺ってきたのは誰か?」
ラピスの口内はからからだった。
先程の出来事を思い出して、気分が悪くなった。
「それじゃ……僕が、今見たのはヴォル…」
「ハリー、ラピス、あなた達大丈夫?」
ハーマイオニーが道の向こうから駆けてきた。
「ハーマイオニー」
ハグリッドも息を切らしてその後ろを走ってくる。
ヴォルデモートの事で頭が一杯で、ラピスは返事をすることも忘れていた。
影は、何か言葉を発した。
彼は、何と言った――?
「貴女は、希望であり、光です――『ディアマンテ』」
フィレンツェが、ラピスにそっと囁いた。
30 れは星さえも隠して(無知すぎる私は、)
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