ハグリッドが注意事項を述べ、森の中へと入る。
ラピスはハリー、ハーマイオニー、ハグリッドと一緒だ。
ドラコ、ネビル、ファングの組は別の方向へ進んで行った。
森へ足を踏み入れた瞬間、背筋がひんやりとした。
誰もが無言のまま奥へと進んで行くと、地面に銀色の液体が飛び散っている――ユニコーンの血だ。
「待て」
ハグリッドの声に足を止める。
「――っ!」
少し離れた所に倒れている生物に、ラピスは目を見開いた。
ハリーとハーマイオニーも息を飲む。
あれは、ユニコーンだ。
――死んでいる。
ラピスは、こんなにも美しくてこんなにも悲しいものを初めて見た。
「ラピス……?」
ラピスは無意識に足を踏み出していた。
一歩一歩、誘われるように、ユニコーンの傍へ膝を着いた。
震える指先で触れたユニコーンの身体は、氷の様に冷たかった。
どうして、こんなことに――
「おお…!」
「見て、ユニコーンよ!」
ハグリッドとハーマイオニーの声にラピスが顔を上げると、いつの間にかユニコーンの群れがラピスとユニコーンの亡骸を取り囲んでいた。
「ハグリッド、大丈夫なの?!」
「大丈夫だ、彼女は決して襲われん」
ハリーの焦る問いかけに、ハグリッドはきっぱりと言い切った。
「あなた達……」
自身を取り囲むユニコーンの群れ。
子供だろうか、身体が小さなものもいた。
白色の毛に金色の蹄。
美しい毛と立派な角は、月光で輝いていた。
唯々、美しかった。
これが、この生き物が、ユニコーン――。
「え……?」
それまでじっとしていたユニコーンの群れが動いたかと思うと、彼等はゆっくりと膝を折り、頭を垂れた。
まるで、ラピスに跪くかのように。
「ユニコーンが跪くなんて……!」
ハーマイオニーが感嘆する。
「家族なのね……?」
ラピスがそろりと手を伸ばす。
一頭のユニコーンが彼女に近付く。
そして、彼女の手に擦り寄って、甘えるように頭を押し付ける。
尖った角は、彼女を傷付けないよう丸くなっていた。
「すごく綺麗……」
ラピスとユニコーンが寄り添う光景は、美しいものだった。
その光景を見守る三人は、時間も忘れてただ見つめていた。
「悲しいのね……」
ユニコーンに触れた瞬間、伝わった悲しみ。
何故かは分からないけれど、その感情が手に取るようにラピスには分かった。
群青色の瞳でユニコーンの瞳を覗き込む。
潤んだ瞳から落ちた雫が彼女の腕を伝った。
温かく、純粋で、悲しい涙だった。
「此処にいてはいけない何かが…いるのね」
「ラピス、分るの……?」
ハーマイオニーが静かに聞いた――その時、大きな音と共に夜空に赤い花火が上った。
その音に飛び上ったユニコーンの群れ。
「ネビル達だ!」
「三人とも此処で待ってろ!」
ハグリッドは、草をなぎ倒しながら遠ざかっていった。
「この子は埋葬しておくわ」
ラピスは傍の亡骸にそっと触れる。
「逃げて。捕まらないで、傷付かないで――」
ユニコーンの群れはもう一度彼女に頭を垂れると、あっという間に森の奥へと消えて行った。
「ラピス、君って一体……」
ハリーが目を見開いたまま彼女を見る。
「…私も驚いたわ」
ユニコーンが自身に近付いてきたことも、彼等の感情が手に取るように分かったことも。
「言葉が分かったの…?」
「いいえ、そうではなくて…感情が伝わったの」
「感情?」
「とても深い悲しみ。そして恐怖、怒り――此処にいてはいけない何かがいる…」
一体何がいるの――?
ハリーとハーマイオニーは、不思議そうな表情で、ラピスを見つめた。
彼女は黙ってペンダントを握り、ユニコーンの屍を見つめていた。
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