◇1
「雛。エイプリールフールって知ってますか?」
今日は、4月最初の日。
雛がいつものように、俺の店に手伝いに来てくれている所に、なぜか、成と羽柴くんが意気揚々とやってきた。いつも、成にバカだバカだと言われ遊ばれてる羽柴くん。だけどなんだかんだいって、仲がいい2人だと思う。
そんな2人がそろって登場だなんて、また何か思いついたんだろうか?そう思っていたら、成が雛にエイプリールフールを知ってるかどうかなんて事を聞いている。
俺は、あぁ、4月バカの日だな。そう思っただけ。毎年、そんな日もあるな位にしか思ってはいない大した事がないイベントだけど、そういえば、学生時代は、成にいつも羽柴くんが騙されていたな〜なんて思い出す。
毎回毎回、騙されてる羽柴くんを見て、4月バカとはよく言ったもんだとある意味感心。
きっと今年も早速、騙されたんだろうな。
そんな騙す側と騙される側の2人。いくらなんでも、雛を騙して楽しもうなんて思わないとは思うが、なんだろうな?
「えぷりぃるふ、う?」
小首を傾げながら、成を見上げて、一生懸命成が言ったエイプリールフールっていう言葉を言おうとしているのだけど、元々聞きなれない言葉の上舌ったらずな雛には発音が難しかったようで(ハロウィンの時のトリックorトリートも言えてなかったしな、、、)
「エイプリールフールだよ!ひーなちゃん☆」
うんうん言ってる雛に、横から羽柴くんが助け舟。だけど、その言葉自体が雛には難しいんだって、奴は気づいていない。
んぅ…と、眉を垂れさげながら、さらに雛は難しい顔をして、「えぷ、えぷ」と言っているが、ふるふると首を振ると、
「しらない、」
諦めたらしい 笑
ちょっと、頬を膨らませて拗ねている姿が可愛らしい。
「嘘ついてもいい日なんだよ、雛ちゃん。」
そんな可愛い雛の姿に、苦笑しながらも雛にもわかるように簡単に冬夜が説明をした。
「うそ?」
不思議そうな雛。
「うん、そうだよ」
と、頷く冬夜。すると、雛はちょっと顔をしかめて、
「うそはね、ついちゃだめなんだよ!」
ぷんぷんと言った感じで、雛が冬夜に言った。ほんと、雛って擦れていないよな。
「そうだよねー。うそはダメだよね、雛ちゃん。でもね、その日だけは嘘ついても誰にも怒られないんだよ!それが、エイプリールフールっていうんだ。」
そう笑いながら羽柴くんが言った。
そうと聞いてもやっぱりまだうそに抵抗があるのか、むぅ…と、考え顔をする雛。そんな雛を見て、
「雛、実はですね。明日から俺、雛と会えなくなるんですよ。」
突然成が雛に向かって告げた。は?何言ってんだ?と一瞬俺は思ったが、ああエイプリールフールか、と納得する。羽柴くんも冬夜も同様のようで、少し苦笑しながらも、成り行きを見守っている。
すると、それを聞いた雛は、えっ?と惚けた後、言われた言葉を理解したのか目をいっぱいに見開いて成を見た。そしてわなわなと奮え、耳もぴくぴくと垂れさがり始める。(ように見えた。隠されてるから見えないけど)
そして、潤んだ瞳に涙がいっぱいに溜まりはじめて、今にも溢れ落ちそうになると、持っていた最近お気に入りの魚のぬいぐるみをギュッと抱きしめた。
「ふ、ぅえ…っ、や、なりいなくなっちゃ…ぁ、やぁっ」
そう呟いた後、とうとうポロポロとおおきな瞳から涙がこぼれ落ちてしまった。
それは、一瞬で。軽い気持ちでいたその場に居た全員が固まってしまった。
そして、いち早く我に返ったのは成。自分が原因で鳴かせてしまった事に激しく後悔をしているのだろうが、まずは誤解を解こうと、
「う、嘘ですよ。今のは例えばの話なんです!」
いつも冷静な成だが、アタフタと慌てて必死に、雛に説明をしている。
「う…そ?なり、じゃあいなくなっちゃわない?」
涙で潤む目で成を見つめながら雛が言えば、
「雛が嫌って言っても、俺はずーっと雛の側に居ますよ!」
「…ほんと?」
「はい。もちろん!」
それを聞いた雛はほぉ…っと、安心したように息をはいて、
「よかったぁ」
と笑顔で呟いた。なんて、可愛いくていじらしいんだろう!そして、純真すぎる雛に、みんなデレデレだ。
成はもちろんの事、当事者ではない羽柴くんも、そして冬夜までもが雛に「ごめんね、ごめんね」と必死に謝っている。
そんな3人に雛はぷくぅっと、口を尖らせると、
「うそ…いっちゃ、だめだもん」
また、ぎゅうっとぬいぐるみを抱きしめながら3人を上目遣いで睨みながら(つもりだろうが、可愛いだけ)「めっ、だもん」と、オプションの涙目つきで言ってきた。
……マジ、可愛すぎだろ?
「そ、そうだよね!うそはダメだよね!ダメだよ、成!」
「雛ちゃんは素直ないい子だから信じちゃって悲しくなっちゃったんですね。成さん、ひどいですよ!」
羽柴くんと冬夜が、嘘をついた成を攻め立てる。
ははは、
「成、やられたな」
そう言ってやれば、言われっぱなしだった成が、ニヤリと笑う。なんだ?
「でもね、雛。悲しかったけど、嘘って聞いて嬉しかったでしょ?」
ん?
「うん!」
「悲しかったけど、俺が居なくならなくて良かったって思ったでしょ。エイプリールフールはそういう日なんですよ!嘘だけど、嘘ってわかってホッとする。そんな日なんです!だから、この日だけは嘘をついても大丈夫なんです。それを説明したかったんですが、泣かせてしまってごめんなさいね、雛。」
そう言って、ニコッと微笑む成に、雛も「そっかぁ!」と笑顔で返している。
…、いや…、そんな日だったか?いやいやいや、違うだろ!とは思うが、成に言っても勝てっこない。だから、言わない。
羽柴くんと冬夜も、何か言おうとしていたが、それを成りは一睨みで黙らすと、雛に目線を合わせる。
「だからね…」
ニヤリ…と黒い笑みを漏らした奴は、こしょこしょと、なにやら雛にに耳打ちをしている。なにを言っているのかは知らないが、言われた雛がえ!っという驚愕の顔をしているのを見れば、きっとロクなことじゃない。
「大丈夫です。嘘だよ。今日は何日?って言えば、さっきの雛みたいに洸さんも良かった!って笑ってくれますよ。」
と言っていた。あー、、、洸さん。何かしらないけど御愁傷様。
「なんて言ったの?」
羽柴くんがウズウズと聞きたがっていたが、
「んふふ…秘密です。」
と怪しく笑う成。笑みが真っ黒だ、、、。
「成…、あんま洸さんをイジメんなよ…。」
と、形ばかりの忠告は一応しておいた。
「ふん、イジメじゃないですよ。愛のムチです。」
成はそんな俺の忠告にも不適に笑うだけだった。
後日、
洸さんに何があったかは…知らない。けど、成に文句を言ってる姿は見られたが、成に取り合ってはもらえず、脱力していた洸さんが居たから、やっぱり何かあったんだろうな。
しょうがない。
何か美味しいものでも作ってあげようか。
fin.
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