◇にゃんこの年越し


「雛くん?眠いんでしょ?もう寝たら?」

さっきから、何度となく繰り返しているこの言葉。しかしその度に、

「やっ!」

って、珍しく反抗しながら両手でくしくしと眠い目をこすっている雛くん。

12/31の大晦日。
時刻は、23時過ぎ…

いつもだったらとっくの昔に雛くんは夢の中なハズなのに、今日はなんでだかひたすらに寝ようって言う俺の言葉を拒否し続け、眠いのを我慢しながら俺と一緒になって起きて、さっきからずっと紅白歌合戦を見ています。

なんだけど…ほら。舟を漕いで、もう今にも寝てしまいそうなのです。

「ほら、もう眠いんでしょ。俺と一緒に寝よう?」

そう言って、何度目かになる眠りの誘いをするんだけれど…

「やぁっ!」

パシッ

て、今度は可愛らしい猫パンチまでされてしまった俺。う〜ん。今日は本当にどうしちゃったのかな?雛くんは。


――始まりは今朝でした。

「ぼく。きょうはずっと、おきてるの!」

朝起きて、えっへん!って感じで、俺にそんな宣言をした雛くん。

「ふーん…」

俺は朝から大掃除でバタバタしていて、雛くんのそんな言葉をテキトーに聞き流しつつも、どうせすぐに寝ちゃうんだろうな。そんな風に思っていた。

「ねーねー、こーくん!」

テキトーに返事してるのがバレたのか、雛くんがぐいぐいと俺の服を引っ張り訴える。

「聞いてる。聞いてるよ。」

そう、答えながらも大掃除に精を出す俺。そんな俺の態度が気にいらないのか、

「ぼく、ぜったいねないもん!」

普段はぽわぽわしている雛くんからは想像もつかないような、何かを決意したかのような気合いの入りよう。いったい何に対しての決意なのだろう。

雛くんは…

確かにやる気だった。

そうして、今現在に至るのだけれど。結局は、眠りそうになる雛くんを俺がさっきから声をかけて、眠ってしまう前に起こしてるんだけど…。

だってあんなに、"ねない!"って一生懸命宣言していて。何が雛くんをそうさせるのかは解らなかったけど、それで寝ちゃったりしたら可哀相でしょ?いつの間にか寝てしまって明日を迎えてしまったら、きっと雛くんが悲しむから。

だから、雛くんがどうしても寝ない。起きてるって言うのなら、微力ながら力になろうとさっきからこの会話を繰り返している訳です。

でもさ…
いつも、素直でいい子な雛くん。そんな雛くんが一生懸命反抗してるのってなんだかとっても新鮮。

「これはある意味…萌えですか?」

そんな、バカな考えをおこさせるくらい何してても雛くんの存在が俺の中で愛しいのです。

そうこう繰り返して迎える大晦日の夜。
現在の時刻は”23時58分”

「雛くん…」

「んぅ…もぉ…ぼく、ねない…モン…」

くしくし必死に目を擦り頑張る雛くん。

――解ってるよ。

「雛くん…」

――ほら、もうすぐだよ。頑張って。

テレビには、いつの間にか紅白も終わり、毎年恒例の某アイドル事務所のカウントダウン番組に変わっていた。

雛くんは、5人の国民的アイドルグループが好きで、よく歌ったり踊ったりしてる。
そんな大好きな彼らが、今テレビでカウントダウンを始めた。これを観たくて雛くんは一生懸命起きていたのかな?

眠い目で、じぃっとテレビを見つめる雛くん。



”30”


いよいよ新年へのカウントダウンが始まった。


”20…”


”10…”

”5”

”4”

”3”

”2”

”1”




”HAPPY NEW YEAR 2015”

テレビの中で、人気アイドル達がおめでとうを言い合っている。それを見ながら、

「ひ…」

声をかけようとした俺に、

「こーくん!あけましておめでとうございます!」

さっきまで、必死に眠気と闘っていた雛くんがふにゃぁって可愛く笑って、

「ことしもよろしくおねがいします」

眠いからか、いつも以上に舌っ足らずにそう言って

「いぇたぁ!ぼく、いちばんにこーくんにおめでとうをいいたかったんだもん」

可愛い、可愛い花が綻んだような笑顔でとんでもないくらい嬉しい台詞を言ってくれた雛くん。

きょうは、ねない!おきてる!

珍しく反抗的だったのも、みんな俺にこの言葉を言う為だったのか。


あー


もぅー



可愛い過ぎだよ、雛くん!?

ぎゅうっ!って思わず雛くんを抱きしめながら、

「あけましておめでとう!雛くん。俺の方こそ、今年もよろしくお願いします!」

そう腕の中にスッポリ収まる愛しい存在に囁いた。それを聞いていたのかどうか。ふんわりと安心したように笑って、そのまま雛くんの眠気も限界だったようで、スヤスヤとした寝息が聞こえてきた。

「寝るの早すぎでしょ!」

思わず突っ込んでしまった。でも、頑張ったんだもんね。雛くんは。雛くんの柔らかい髪を撫でながら、

「俺も寝るか…」

そのまま、雛くんを抱き上げ寝室へ向かった。そうしてベッドへ潜り、腕の中の雛くんの温もりに満足しながら俺もすぐに眠りについた。

今年もずっとずっと側にいて。
いっぱい楽しい思い出作ろうね。

俺にも雛くんにもよい年になりますように…。





fin






 



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