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俺の名前は、加宮 真名(かみや まな)。16歳の普通なら高校一年生。両親は7年前に事故にあって他界した。俺の事は皆、厄介者扱いで、親戚もたらい回し。いい加減うんざりして、もういいかな?って親戚の家を飛び出したのが今年に入ってすぐだった。義務教育の中学は卒業したし、高校には行く気はなかった。それなら働きたいと思っていた。幸い、俺は占いの才能があったらしい。媒体はタロットカード。中学の時になんとなくネットで始めた占いが、当たると評判になり、今ではかなり有名な占師だと思う。

そうやって、お金を貯めて一人でもやっていけるという自信がついたからこそ今はそれで生計を立てて1人で暮らしていけている。世の中、占いに縋りたいって言う人間が多いらしい。ありがたい事だけどね。

そんな俺は、ちょうどタロットを始めた頃辺りから夢を見始めた。最初は、朧げな感覚。だけどすごく高揚した気分だった。

だけど、だんだん占師としての能力が開花してくると、夢の内容がはっきりとしてきた。その頃からなんだか夢から覚めると、がっかりとした気分になっていた。それがなんでなのか…。

理解できるようになったのは本当に最近。今では、夢の記憶がしっかりと残っている。あれは、俺の夢であって俺じゃない。そんな感覚だ。夢の中の俺…そう、アレは愚者の感覚。

自由気ままな愚者。今までの窮屈な自分を解き放ち、一歩前に踏み出し新たなる自分の可能性を探し旅立とうとしている。本能の赴くまま、全てを捨てて。今までの自分の全てをリセットする愚か者、愚者。人はそんな彼を笑うけれど、本当にそうだろうか?全てを捨てられる愚者が羨ましいだけじゃないの?俺は愚者が羨ましいよ。だからこんな夢を見るんだろうか?愚者になりたいと…。

二手に分かれた道があった時、左は崖だったとしたら、ほとんどの人が右を行くだろう。だけど、愚者は違う。迷わず左の道を行く。その道を行きたいから。だから立ち止まらない。楽しそうに、危険を促す犬の声すらも心地よいBGMなのだ。そうして彼は崖から飛び降りる。

そして俺は、いつもここで目が覚める。そうしてがっかりするんだ。今日もダメだった、と。俺はまだ愚者じゃない。だから、夢から覚めて現実に引き戻される。

もしも愚者になれたなら、きっと崖から飛び降りた瞬間に羽根が生えて大空へ飛び立ち、本当の自分のスタート地点に辿り着く事ができるのだろう。

今日も、俺は夢にたつ。いつもよりも空が輝いて見えるのは気のせいなのかな?さぁ行こう、スタート地点に向かえる場所まであと少し。

今日が記念の日になりますように。



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