「…んっ、」
ふぁあ。欠伸を一つしながら、伸びをした。今日もいつもの夢を見ていた。だけど、なんだかいつもとは少し感じが違うなぁ、と夢の中でも感じていた気がする。あの感覚はそう、開放感。それが一番しっくりくるんじゃないかな?すっと身体が軽くなって、今なら空が飛べてしまうって、そう思えた。
「う〜ん。マジで飛んじゃった訳?」
思わず背中を見たけど当然羽根なんか生えてなかった。残念。けど、だったら今のこの状況は何なの?
「どこだ?ここ…」
確か俺、自分の家のベッドで寝てたよな?どう見たって、ここは…
「屋外だろ?」
しかも、家の近所にこんな場所はなかった。うん、こんなあきらかな森なんてね〜?不思議だな〜。あ、まだこれ夢かな?そう思いいたって、頬を軽く抓ってみた。
「……痛い。」
夢、じゃない訳か。
「とりあえず、探検する?」
幸い、昨日はなんだか疲れていて着替える事なくそのままベッドに入ったらしく、ちゃんとした服を着ている。よし、決めた。ここでボーッとしていてもしょうがない。立ち上がろうと地面に手をつくと、何かに触れた。
「あ。」
それは俺の商売道具であるタロットカードをいつも入れているリュックだった。中身を確認すれば、ちゃんとタロットカードがそこにはあった。
俺はしばらく考えてから、そっとタロットを手に取り二つの山に分け、その内の22枚を軽くシャッフルした。そして、それを三つに分けた後、もう一度戻す。その山から、一枚のカードを引いた。
"愚者"
何故かやっぱりと思った。
「愚者の正立か…」
少し考えて、もう一枚引いてみる。そして、それを愚者の右隣に置いた。
「13番…か。」
いわゆる死神と言われるカードだ。一般的なタロットは死神とかデスとか言うが、俺が扱うのはカモワン式タロット。だからこのカードには名前がなく、数字のままの13番と言う。13番は、その絵柄や13という番号に現れているように、不吉とされるが悪い意味だけじゃない。今回出たのは正立。愚者の見つめる先がこのカードならば、この二つに共通するのは、移行と変容。13のもつ死は、再生に繋がる。だから、この場合、次のステージへ向かう新たなる始まりだろう。
「さーて、じゃあこの13番の見つめる先は、何だろうな?」
なんとなく次に出るカードの予感はある。きっと、あのカード。そう思いながら引いてみれば、
「やっぱり、ね。」
俺の考えていた通りのカードだった。どうやら、ここは俺の知る世界ではないらしい。記憶はないが、俺は死んだんだろうか?その辺はよく分からないが、きっと俺はこの世界でやらなければならない事があるらしい。
俺は今出た3枚のカードを山に戻し、順番通りに並べ替えてもう一つの山に重ね纏めるとリュックにしまった。そして、今度こそ立ち上がる。前に進む為に。
「行くか。」
俺はワクワクしながら、森の中を進んで行く。怖さは不思議と全くない。とにかく進めばいい。自分の思うように進めば道は開けるはずだから。
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