◇3
《?視点》

ピンポーン…

ん?こんな時間に誰だろう?めんどくさいなぁ…。なぁんか、嫌な予感がするんだよな。
と思いながら、インターフォンのモニターから外を覗いてみた。すると、見慣れた俯き加減の小さな身体が見えた。

あれ?芽以?こんな時間にどうしたんだ?突然なんの連絡もなしに現れた相方の姿に訝しぎながらも慌ててオートロックを解除して、すぐに部屋まで来るように伝えた。改めて鳴らされたインターフォンにガチャリとドアを開けると、普段から小さな身体がより頼りなげに俯き庇護欲を誘う俺の相方、芽以。

「芽以!こんな時間にどうしたの?とりあえず、入ってよ。」

早く早くと、中へ促す。セキュリティーは万全とはいえ、自分達の職業は理解している。どんな目があるか分からない。

ノロノロと、俯いたまま中へ入った彼は、表情が伺えないけど、なんだか泣いてるような雰囲気。あの、芽以が?泣きそうで泣かない芽以が?一体こいつに何があったっていうんだろう?日頃ない事態に俺は少し戸惑っていた。

玄関の中に入ってもそこから中々動きだそうとしない彼。こいつがこんなになるなんて、

「芽以?廉慈と何かあった?」

廉慈とは芽以の彼氏。仕事のないこんな時間は、たいてい芽以は廉慈の家に押し掛けて一緒にいるハズだから。今、ここに居る事はおかしい。しかも、こんなに弱っている芽以なんて中々お目にかかれない。可愛らしい見た目に反してこいつは中々に図太いからね。色々と、周りのイメージを裏切ってくれる芽以だけど、稀にこんな弱々しい姿を見せる事が不意打ちであったりするからたちが悪い。よしよしって誰もがしたくなってしまう。

もし、ほんとに泣いてるのなら廉慈と喧嘩でもした位しか思いつかないけど、あれだけ芽以を溺愛している男と喧嘩になんかなるんだろうか?あいつ今、恋愛ドラマとかしてたっけ?ラブシーンとかに芽以がヤキモチ焼いたとか?……ないな。そこまで考えて、芽以を見たら、いつの間にか俯かせていた顔をあげ、涙の溜まる大きな瞳で見上げてきた。ほとんど変わらない身長にも関わらず上目遣いになっているのが芽以の凄い所で、しかもそれが計算ではなく天然である事が恐ろしい。周りは、これにどれだけやられている事だろう。それの最たるのが、件の彼氏の廉慈だ。俺?俺はもう慣れた。慣れたっていうか、理解した。芽以って人間をね。でも、理解していたってこんな不意打ちにはやっぱり弱いんだよ。ぴるぴる身体を震わせてる芽以は小動物みたいだ。

「ヒ…ッ、ヒック…」

なんて思っていたら、鳴咽が聞こえはじめ、本格的に泣きにはいったようだ。やっかいな……。これは、思ったよりも深刻だったか!と、慌てた俺は芽以の背をさすりながら、ことさら優しく問いかける。

「どうしたの?ほら、涼ちゃんに話てみ?溜め込んでちゃダメだよ。」

すると、涙に濡れた顔をあげた芽以は、

「ふぇ…っ、りょぉちゃ、ん…」

と、俺に抱き着いて本格的に泣き出した。しばらく玄関で泣く芽以をあやしながらチッと心の中で舌打ちをした。今ここに居ない、おそらく芽以の泣いてる原因の男に怒りを覚える。

芽以を泣かせやがって!

そうしてしばらくした後、少し落ち着いた芽以を部屋の中へ連れていき、

「ちょっと待ってて。」

と、芽以を残し台所へ向かった。そして急いで芽以が好きな温かいココアを作り、芽以の元まで戻ってココアを目の前に置くと、飲むように言った。しばらくジッと湯気の出ているココアを見つめていた芽以だったけど、おずおずと手に取りコクコクとココアを飲みはじめた。

「おいしぃ…」

そう言って、俺にへにゃり笑う笑顔が痛々しかった。




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