「お話があります」
朝から映画の撮影でクタクタになって帰った俺を待っていたのは、改まった感じで正座をしてお出迎えしてくれた恋人だった。え?何これ?
「廉くん、そこ座って」
「は、はい!」
芽以ちゃんにピシッと言われて俺も慌てて向かい合い正座をした。芽以ちゃんはいつも下がり気味な可愛い眉を更にさげ、日頃からウルウルしている瞳もいつもの2割増し。そんな瞳で俺を上目遣いに見てくるもんだから、可愛いな〜なんてデレっとしてしまった。
「廉くん!」
おっと!珍しく真剣な表情で睨んできてる芽以ちゃんに、俺も芽以ちゃんが常々好きって言ってくれる顔を引き締め聞く体制を作った。うるうるしている芽以ちゃんの瞳から今にも涙が零れ落ちそうで、泣くんじゃないかと心配になるけど、実は簡単には泣かないのが芽以ちゃんだ。
でも、今日の芽以ちゃんはいつもの芽以ちゃんとどこか違って見える。俺をジッと 見ながら、どこか不安そうだ。そして、「話がある」そう言ったまま、中々話を切り出そうとしないのも気になって、なんだか俺までそんな芽以ちゃんを見て不安になってきた。ま、まさか別れ話じゃないよね!
「ど、どうしたの?芽以ちゃん?」
このなんだか重い空気が耐えきれずに俺からそう話をきりだした。すると、泣きそうだった芽以ちゃんの瞳がくるんと視線をさ迷わせた後、彼の大きな瞳からポロリ…と、涙が零れた。え〜〜〜〜!
「め、め、芽以ちゃん!どうしたの!俺、なんかした!?」
普段簡単に泣かない芽以ちゃんの涙に俺は慌てるばかり。オロオロしながら、芽以ちゃんをそっと壊れ物を扱うように抱きしめて、背中をぽんぽんと叩いて、芽以ちゃんの気持ちが落ち着いて話してくれるのをドキドキしながら待った。本当に別れ話だったら俺、どうしよう…。俺、泣いちゃうよ。なんて、脳内で絶望的な考えがぐるぐると渦巻いていた。
しばらくすると、腕の中で大人しく俺に抱き締められていた芽以ちゃんが少し離れて俺に目を合わせると、
「ぼ、僕、…妊娠した」
そう、俺に告げた。え…?今、なんて言ったの?聞き間違いかな?
「あ、あの…、芽以ちゃん?今、なんて?」
聞き返してしまった。すると、腕の中の芽以ちゃんが、肩を震わせて鳴咽を漏らし泣き出した。
えぇっ!!
「あっ!ご、ごめん、芽以ちゃん。あ、あの…」
動揺する俺に、
「ぅっ…、妊娠しちゃったんだもん。…ごめんぅ…、廉くん、困るよね」
って、泣いてる芽以ちゃん。だけど、に、妊娠?誰が?誰の?
「えっ…?俺の子?」
唖然として思考が止まり、思わずそんな事を呟く俺の言葉を聞いた瞬間、泣いていた芽以ちゃんがガバッと顔をおこすと、俺をキッと睨んできた。その涙に濡れて痛々しい顔は、般若のように変わり、身体は怒りで震えているようだった。
ドンッと、俺を突き飛ばして即座に立ち上がると、唖然とする俺を冷ややかに見下ろし、
「僕、廉くん以外としてない!サイテーだ、廉くん。」
そう叫ぶと、そのままバタバタと部屋から出て行ってしまった。依然として思考が停止して動けない俺を残して。
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