――…結局、
バカップルはまだ居る。俺の家に。
「うわぁ…、でも信じられない。ここに、俺達の子供がいるなんて…」
と、芽以のお腹を摩りながら、デレデレと雪崩まくった顔を惜しげもなく晒す廉慈。ファンが泣くぞ?
「ねーっ」
そんな廉慈を、嬉しそうに見てニコニコしている芽以。うん、可愛い。
「男かな?女かな?もう、動くの?」
そんな事を言いながら、芽以のお腹に耳を当てて…。アホか。まだ分かる訳ないだろ。そんなぺったんこな腹なのに動くか、ばーか。
「廉くん、まだ早いよ。」
そんな風に呆れたようにくすくす笑いながら言う芽以は、でもやっぱり嬉しそう。…おぅ、もっと言ってやれー…、けっ。いつまでこれ、見せられてる訳、俺?
「名前!?考えなくちゃ!」
「だから、まだ早いって…」
どこまでも浮かれ気の早い旦那に、そろそろ芽以もめんどくさくなったのか苦笑し、そしてようやく空気と化していた俺の存在に気付いたようだ。
「涼は?どっちがいい?」
なんて、こてんと首を傾げ可愛い笑顔で聞いてくる。………まだ、早いんだろ?そんな風に思うけど、ようやく俺に気づいて、そんな可愛く聞いてこられては無視もできない。それに何より芽以の子供だ。
「芽以に似てれば男でも女でもいい。そんで、嫁に貰う!」
と言ってやった。半分余計な遺伝子があったとしても、芽以に似たら可愛いに違いないからね。結局、俺も、芽以バカなんだ。悪いか。
「んふふ。涼、貰ってくれんの?」
嬉しそうにそんな風にノンキに言う芽以とは反対に、
「アホかぁ!!嫁になんて絶対にやりません!!」
と、廉慈が叫ぶ。そんな、廉慈をまたまた軽くスルーしながら、
「芽以に似た子なら、超絶に可愛いだろうな。光源氏計画だな。」
「涼が相手なら安心。」
「そう?じゃもう産まれたらすぐ婚約しちゃうか。」
「んふふ、しちゃう?」
と、2人でまだ産まれても、男か女かもわからない子供の未来計画を話して笑ってると、
「だから!俺を無視しないでよ…。芽以ちゃ〜ん、涼〜。」
と、本気でへみはじめた廉慈を笑いながら、
「ほら、もうソロソロ帰れよ。明日は、事務所行って報告して…これからが大変なんだから。覚悟しとけよ。」
事務所の皆も周りも、2人を知る人物は温かい目で見てるから大丈夫…とはいえ、そうじゃない者達や、ファンだっている。アイドルの結婚となればマスコミも飛びつく話題だからね。祝ってくれる人ばかりではないって事。だけど、今だけは…今日だけは幸せを噛み締めておけばいい。そうして明日からに備えて、今日はユックリ2人で過ごせばいい。
もちろん、俺だって休みたいし。そう思って、
「ほら、帰った、帰った!」
追い立てるように、2人を玄関へ誘導する。
「じゃあね」
ニコッと笑い2人を見れば、
「涼、今日はありがとう。」
少し眉を下げて芽以が言う。
「迷惑かけて、ごめん。」
続けて廉慈。
「いいよ、いいよ。悪いと思うならとっとと帰ってくれ。」
手をシッシッとやりながらもう一度笑って言ってやる。
「うん。また明日ね。」
「明日。」
そう言って、芽以を庇うように廉慈の手が腰に回る。仲良く幸せそうに帰って行く2人を俺は見送った。
明日から大変なのは2人だけじゃない。少しのんきでぽやぽやしている芽以をサポート出来るのは俺だけだと気合いを入れる。芽以と廉慈の子供は俺の子供みたいなものでもある。変な意味じゃなく、ずっと側に居て見守ってきたのは俺だという自負がある。廉慈で対応しきれない事は俺がやる。明日からの目まぐるしく変わるだろう事を想像し、それでもその後に生まれる小さな命を想い…
「大事の前の小事だ」
と、緩む頬が隠せない俺だった。
早く、生まれておいで。
君の幸せは約束されているから…
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