廉慈との通話を終わらせて携帯を閉じた。どうやらここにきてようやく意思が固まったようだけど、あいつの芽以に関する事へのヘタレ具合は筋金入りだ。芽以の前でまたテンパらなきゃいいけど…と思いつつ、
「お手並み拝見。」
見せてもらおうじゃないか。俺は傍観者に徹する。そうごちながら芽以の元へ戻ろうと思ったその時、
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。確認すれば先程まで話していた相手で、おいおい、早過ぎるだろ!完全に当たりをつけてきて、マンションの下で電話をかけてたのか。こういう所は抜かりのない奴。なのになんで芽以にだけは残念になるんだろう。そんなどうでもいい事を思いつつ、オートロックを解除してからゆっくりと玄関に向かう俺。玄関に着くとタイミング良く再びチャイムがなり、ガチャリとドアを開けて、
「早かったんですね。」
皮肉まじりに言えば、
「涼に芽以ちゃんを取られたら困るからね。」
サラリとそう返された。そして、芽以の居るリビングに2人で向かう。
「芽以ちゃん!」
リビングのドアを開くと同時に中にいる芽以向かって名前を呼んだ。中に居た芽以は突然の事に固まってしまったように唖然としながら目を見開きポカンと口を開け廉慈を見ている。ちょっと、バカっぽいのはスルーしよう…。
そんな、芽以の様子を無視して、廉慈はズカズカ芽以の前まで行くと、そのままぎゅっと抱きしめた。抱きしめられてようやく今の現状に気付いたのか、廉慈の腕の中暴れ出す芽以。ジタバタもがき逃げ出そうと必死だった。それを、絶対に逃がすまいとして廉慈はさらに腕の力を強めていた。見た目のスマートさに反して鍛えているこいつの力に芽以が抗える訳がない。その様子を冷静に俺が分析をしながら見ていた。するとようやく諦めたのか疲れたのか、抵抗を芽以が止めたのを見計らって、
「芽以ちゃん…っ」
呼ばれ、ピクリと芽以の身体が跳ね上がる。
「ごめんね…」
耳元で謝罪の言葉を伝えている廉慈。
「あまり突然で…芽以ちゃんの気持ちまで頭が回らなくて…無神経な事いっちゃって、ホントごめんなさい。」
必死の謝罪を廉慈の腕の中で大人しくに抱かれながら芽以は聞いていたが、
「廉くん…困るだろ?そんなスキャンダル。僕、迷惑かけらんない。…だから…いいんだ…もう。」
芽以が、泣くのを堪えながら、一つ一つ言葉を紡ぐ。
「わかってる…カラ…だ、から…っ…」
「わかってるって?何が?」
それまで黙って聞いてた廉慈の雰囲気がガラリと変わって続く芽以の言葉を遮った。あ〜、これは、廉慈怒ってるな。ここからは廉慈の顔は見えないけど、静かな声のトーンの中にピリッと一瞬張り詰めた空気。何より、こちらから見える芽以の顔が少し怯えてる。たまに本気でキレた廉慈から感じる事のある空気だ。こうなった廉慈は正直俺でも怖くなるし、普段はデレデレ甘々な姿しか見ていない芽以には余計そう感じる事だろう。
というか、芽以の前で見せるのは初めてじゃないか?
_8/21