やはり、昔からコイツには邪魔される運命なんだなと思う。芽以の近くにずっと居たのは俺だったのに、余裕をかましていたらさら〜っと横から掻っ攫われた。顔には出さなかったけど、俺は俺なりにショックは大きかったんだ。芽以が幸せそうだったし、廉慈は俺以上に芽以を溺愛していたし、大事にしていた。だから、それならいいと諦めもしたのに、今更こんな事になるなんて!とも思う。まぁ、お互いの勘違いやらタイミングやらな部分もあるとは思うけど…。
………少し考えて、
「ちょっと、ごめんな。」
と、芽以に断りを入れて部屋を出た。そして、さっきから煩く鳴る携帯の通話ボタンを押した。
その瞬間、
「あっ!涼!?やっと出てくれた!」
と電話口でいきなり叫ぶ廉慈。うるせぇ〜!その声に若干イラツキながら、
「なに?」
自分でも解るくらい不機嫌な声が出た。途端に電話口でも分かる、廉慈の焦り。
「あっ…あの…」
「何?何か急用な訳?忙しいんだけど、俺。」
芽以のフォローにな、お前のせいで。そこは心の中で呟いて。言外にさっさと言え、なんなら後にしろという思いを伝える。普段の廉慈であれば不穏な空気を察知して後でいいと電話を切るだろうが、今は相当焦ってるんだろう。簡単には引き下がらず、
「あっ、うん…あの…さ、芽以ちゃんそっちに居ないか、な?」
怖ず怖ずと聞いてきた。居るよ。泣いてるけど。お前のせいで!怒鳴りつけてやりたいが、そこは堪えてなんでもない風を装う。
「なんで?」
「いや…、あのその…喧嘩…しちゃって…。その、出て行っちゃったから…」
だんだん語尾が小さくなり、消え入りそうな声。喧嘩、ねぇ…。
「喧嘩?なんで?」
喧嘩にもなってないだろうよ。言い合い出来ていたなら、今こんな事にはなってる筈がない。そんな俺のイラつき具合に廉慈も流石に何か気付いたのか、
「涼…、芽以ちゃんそこに居るんだろ?」
さっきまでオドオドしてたのが嘘みたいにハッキリした喋りになった。覚悟を決めたらしい。
「………」
「原因…聞いたよね?」
やっと冷静になったらしいが遅い!こいつはすぐにテンパるくせに、気持ちが決まったら驚く程冷静になる。
「何、泣かせてんだ!」
「うん…、ごめん。」
「俺、言ったよな。芽以を泣かせたら許さないって。」
「うん。本当に、ごめん。」
「泣かせるなら、俺が芽以も子供も引き受ける。」
「もう泣かせない。芽以ちゃんも俺達の子供も誰にも渡せない。」
静かに…でも、ハッキリした意思でそう俺に告げた。そんな廉慈に電話口でため息をつきながら、
「だったら、さっさと来て芽以を安心させなよ。」
「うん。ありがとう、涼。」
そう言って電話が切れた。あの様子じゃ、すぐにやってくるだろう。あーぁ…せっかくのチャンスだったのに。あいつ、タイミングいいんだか、悪いんだか…。そんな事を思いながらも、どこかホッとしている自分が居た。
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