■■ ◇3
なんだってんだ、一体。ホント、なんな訳、こいつ!そんな俺の問い。
「…あくま、だもん」
返事した。しかも、それ聞いたよ!知ってるよ。ていうか、俺が言ってんのはそこじゃねーよ。はぁぁぁぁあ…なんか…マジ疲れる。
もう、こいつとは会話が成立しない気がする。答える気はあんのかな?でも、きっとまたまともな答えは返ってこないんだろーな。けど、万が一があるか?聞いてみるか?抱きしめてたレンリーを離して、目を合わせてみた。少し潤んでる瞳が悔しいけど可愛いくて、ぐらぐらと心が揺れる。
「なぁ、なんでその悪魔が俺んとこに居る訳?なんで俺の名前を知ってる?なんで…」
”俺を惑わせる…”そう言いそうになって慌てた。俺、何言おうとしてんだ!こんな、訳わかんない奴に!惑わされた?ナイナイ!混乱してるだけだって!俺の、軽くパニック状態の脳内はそんな俺の考えを慌てて打ち消した。
「うー」
そんな俺の脳内葛藤も知らず、レンリーは眉間にシワを寄せていた。こいつも葛藤してるのか?だけどそんな顔も、へにゃりとして情けなく見え保護欲が増すだけ。潤んでる瞳も手伝ってか今にも泣きそうで、無条件に何でも言う事を聞いてやりたくなる。
「たましい…ちょうだい。」
で、考えた結果の答えがソレか!!また、こてんと首を傾げやがって!つか、ソレも最初に聞いたからな。絆されんな、俺。いくら可愛いくたって、こいつは悪魔だ。狙いは俺の魂だ!
「はいはい…魂が欲しいのね。でも、残念。あげられません!はい、おしまい。じゃ帰って!」
俺は、もうレンリーとの会話を諦め(だって、会話になりゃしない)とっとと追い出す事にした。すると、
「えーっ、むり、だめ、たましいくんなきゃおれ、かえれない〜」
は?なんだそれ?耳を疑う台詞…。なんてった?
「帰れない?どうして!」
他へ行け、他へ!
「んー…、あいのむち?」
は?意味が解らない。ダメだ。本当に、こいつは壊滅的に言葉が足りずに意味不明だ。
「おれぇ…おちこぼれなの。だからぁ…、ちゃんとたましいとるまでかえっちゃダメって…。あいのむちなんだぞ、って」
……。落ちこぼれなのは分かった。見てればすぐ分かる。でもな、
「なんで、俺なのさ?」
「…さぁ?」
「とにかく!魂はあげられません!」
そんな簡単にはいそうですか!ってやれるか、ばーか。
「やだ、ちょーだい」
「帰れ!」
「や。むり」
「………」
「………」
ダメだ。お互い、平行線だ…。
「じゃさ、いちは…ねがいごとないの?」
「ないよ!」
キッパリ言ってやったら、途端にレンリーは泣きそうに顔を歪めた。どうせまた…そう頭では思うのに、どうしてもほっとけない。調子が狂ってしょうがないけど、こいつに泣かれるのは…、なんか困る。泣いて欲しくなくて、騙されてるかもしれっていうのに、なんでか慰めてやりたくなってしまって、バカみたいに優しい声が出た。
「ねぇ、どうするの?俺は願い言なんかないし、魂もあげられない。だけどそれじゃあレンリーが困るんだろ?帰れない?」
すると、俺をジッと見つめて俺の言葉を聞きながらコクン…とレンリーが頷いてから、どうやら嘘泣きなんかではなかったらしく、涙の溜まる目で俺を上目遣いに見てきた。
うっ!やっぱ、可愛いな、、、
「お前、行くとこあるの?」
そしたら、フルフルと首を振る。
「じゃあ、ここに居る?でも、俺は魂はあげれないよ。それでもいいなら居ても、いい。」
しょうがないよな。譲歩だ、譲歩。そう自分に言い聞かせながらレンリーを見ると、ただでさえ大きい瞳を更に大きく見開いて、パチパチと数度瞬きをした。その時、溜まっていた涙がポロリと零れる。
「ほら、泣くなよ、」
レンリーの頬を伝う涙を俺は拭いながら言ってあげる。
「い…の?いち、こまんない?」
「だって…、行くとこないんだろ?仕方ないじゃない?」
ほっとけないよ…、こんな無邪気な小悪魔…。さっきまで、魂くれくれ言ってたクセに、今は俺の心配なんかしている。こういうところが悪魔としては落ちこぼれなんだろうな。なんか、見捨てようものなら罪悪感半端ないし、そんな事したらそれこそ呪われそう…。いや、こいつにじゃなくて、こいつの周りに居るだろう悪魔に。きっと居る。絶対、こいつは甘やかされ慣れてる。そう思って言ってしまった言葉。後悔しそうな気もするけど、今、こいつを見捨てるよりもマシな気がするんだよ。
そしたら、
「あんがとー!いち、だ〜いすき!」
そう言ってレンリーが花が咲いたような笑顔を見せたと思ったら抱きついてきた。その笑顔を見たら、しょうがないな…と、思ってしまったから。
うん、これはこれで仕方ないんだ。
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