■■ ◇2
「ね、ね、」
「………」
「むー、」
「………」
「いーち〜」
ずっと、しゃべりかけてたレイリーを無視していると、急に甘ったるい声で奴は俺の名を呼んだ。
"いち"って。ていうかさ、
「お前、何で俺の名前?」
そういえば俺はこいつに名乗ってなんかない事に気がついた。何で俺の名前を知ってるんだよ。こいつ、マジで何しに来た訳?何て事を考えていたら、
「あー!いち、やっときづいた」
いぇ〜い!なんて、ノンキにそんな事を言いながら、嬉しそうにくるくる飛び回っている。いや、別にずっと気付いてたからね。無視してただけだから。バカなの?こいつ。確かに、頭が良さそうには見えないけど…。
いや、そんな事よりも、
「で、何で?俺の名前を知ってんのさ」
「ふん?」
「ふん?じゃねーよ!俺のな・ま・え!」
終始マイペースで、会話にならないレイリーに若干イラッてして、少し強めに言ってみる。すると、さっきまでにこにこしていたレイリーの瞳が潤んだ。
えっ!?ちょ、ちょっと!まさか泣くのか?!悪魔のクセに!
「べ、別に怒った訳じゃ…」
ちょっと慌てて、否定し慰めようとした俺に、
「…ぷっ、」
くふくふと含み笑うレイリー。………おい…!嘘泣きか!!くっそー、こんの!小悪魔め!いや、リアルに悪魔だけど。なんかムカつく。調子が狂う。なんなんだコイツ。
「用がないなら…出てけ」
本当に頭にきて、自分でもビックリするような冷たい声が出た。すると、今まで腹立つくらいにマイペースだったレイリーが少しビクッってした。
「あっ…いち、ごめ、」
「別に!」
謝ろうとするレイリーの言葉を遮る。言わせねーよ。どうせ、それも嘘だろ。悪魔と馴れ合う気はないからちょうどいい。さっさと、消えろ。
そして、今度こそ静かになったレイリーにこれ幸いと、さっさと着替えて部屋を出ようとした俺。その背中がツンと引っ張られた。
なんだ?振り向くと、地に足を着いたレイリーが、俯いて俺の裾を小さな手でチョコンと掴んでいた。
………。
「…なに?」
なんか、それが小さな子供みたいでなんだか罪悪感がわいてきて、無視できずに声をかけてしまった。あ〜、俺ってバカ。また、この悪魔レイリーに騙されるんだろうな。そう思ったのに、
「おれ、ごめんね、ちょうし…のった」
シュンってして泣きそうな声でレイリーが呟いた。なんか…、その姿が弱々しくて頼りなげで。思わずぎゅうって、抱きしめたくなる位可愛いかった。ふいに上目遣いに見上げる瞳には、涙が溜まって今にも零れ落ちそうで。いやいや、どうせまた、嘘…だろ?頭ではそう思うのに、俺の身体は本能に正直で、気づけばレイリーの華奢な身体を抱きしめていた。
「なんなんだよ…お前!」
可愛いすぎるんだよ!悪魔のクセに。
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