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『でもさ…』
今、俺と成は手近な喫茶店に入って軽く食事をしている。
『成が居てくれてさ、助かったよ。ありがとう。』
そう成にお礼を言うと、
『あら?珍しいですね。』
と成は笑って言った。
『いや、ホントホント。俺一人じゃ、何もできなかったよ。情けないな。』
ちょっと落ち込んでると、
『確かに洸さん、かなりのテンパりっぷりでしたね。』
サラっと毒を吐く成。
『ひ、ひどっ!』
そうだ、コイツはこういう奴だった!言葉使いは丁寧なのに実は愉快犯で皮肉屋。落ち込んでる人の心に塩を塗るのが好きな男。
『んふふ。でも、そんな洸さんを雛は1番好きだし頼りにしてるって分かったでしょう?』
だから、しっかりして下さい。最後はそう言って成は優しく、そして少し切なそうに笑った。正直驚いた。いつもだったらそんな事絶対に言わないのに。そうだ。成はこういう奴なんだ。冷めてるようで一人一人をよく見てるし、空気も読める。何が必要かをよく分かっていて伝えてくれる言葉はいつだって的確。今だって、俺が落ち込んでるのを分かっていて、彼なりに励ましてくれてるんだ。ありがとう…成。本当にお前っていい奴だよ。
『うん。成には感謝してるよ。』
だから、そんな成に俺も感謝の意を込めて笑った。そしたら、
『ふっ、こんなヘタレのどこがいいんでしょうね。』
と言って黒い笑みを浮かべてるのはうん、成なりの励まし…そうだ、励ましだ!そう思っておこう。
成。上げておいて落とす…、アメとムチが絶妙な男だ。恐るべし。