◇5
俺と成が心配そうに雛くんを見てると、
『ちょ、こっちもらうわ。』
そう言って、柳瀬さんが雛くんを俺の腕から素早く抱き上げた。
『えっ?』
あまりに突然過ぎて一瞬何が起こったか分からなかった。
『や、柳瀬さん!?』
同じように唖然とした成だったけどすぐに理解して反応した成も慌てた。暁良さんも、心なしか目を見開いて柳瀬さんの突然の行動を見ていたし、何よりも俺から少しも離れようとしなかった雛くんまでもが突然の事に反応できず固まって柳瀬さんの腕の中で大人しくしていた。だけどそれも一瞬で、次の瞬間には、
『ぇ…ェっ…うャぁぁ…』
小さく鳴きながら両手をいっぱいに俺の方に伸ばしてきた。
『ぅえっ…グ…ぇ…っ』
雛くんの涙でぐちゃぐちゃになった顔。そして、助けを求めるように俺に伸ばされる手…
『や、柳瀬さん!?』
俺も雛くんに向かって手を伸ばした。それをヒョイとかわす柳瀬さんと泣きぐずる雛くん。
『おい!ヤナ!』
さすがに、暁良さんも柳瀬さんの行動に疑問をもったのか、咎めるように叫ぶ。だけど、そんな事おかまいなしに柳瀬さんは、
『うっせーな。お前ら全員過保護すぎ!まどろっこしいんだよ。このままじゃまともに調べられねぇし、時間の無駄だ!』
と答えた。
『あのさー。ここに来たのは何の為?こいつ、元に戻したいんだろ?だったらチンタラやってるヒマねぇだろが!優しいだけじゃ解決できねぇっての。』
そう言って、泣きぐずる雛くんをあやしながら、
『ほら、お前も。俺ら敵じゃねぇから。あんまし泣くんじゃねぇよ。』
雛くんに向けた言葉は、存外優しくて。そうだ、俺は雛くんを元に戻したいんだ。優しいだけじゃ駄目。確かにそうだ。ここは心を鬼にしないと…。そう思ってギュッと拳を握りながら俺は切なくなる程に弱々しく泣く雛くんの声に耐えた。
『そうだな…悪い。サンキュー、ヤナ。』
そう言って謝りながら暁良さんも柳瀬さんの側に行って手伝い始めた。
『まだしばらく時間かかるから。お前ら飯とか食ってないだろ?食べてこいよ。後は俺らに任せて。』
暁良さんにそう声をかけられた。でも、何も役に立たないかもしれないけど雛くんの側に居てあげたい。そんな想いが俺にはあって動かないでいたんだけど、
『洸さん。俺ら邪魔みたいですし。行きましょう。』
成に促されてしまった。
『えっ…、でも…』
『悔しいけど俺達が居ても何にもできないし。あの2人に任しておけば大丈夫です。』
そう言われてしまえば、言う通りにするしかなくて。後髪を引かれる思いだけどその言葉に頷き、その場を後にした…。