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午後からの講義の間も、あいつになんて謝ろう…とそればかりを考えていた。
『講義、終わったよ。』
煩いあいつの恋人に声をかけられて、いつの間にか講義が終わってすでに人もまばらになっている事に気付いた。
あれ?あいつは?目で辺りを見渡す俺に、
『あ〜、彼ならならもう皆と次の講義に行っちゃったよ。』
そう言われた。だから俺も慌てて次の教室に急ぐ。教室に入ると、悪友達と楽しそうに話しているあいつの姿を見つけ、何だか凄くモヤモヤした。俺は、最近ずっとそんな笑顔を見せてもらっていない。
モヤモヤする気持ちを抑え、少し離れた所で講義を受け、早く終われと念じ続けた。そして、講義の終わりを告げた時、素早く立ち上がり、恋人の前に行くと、
『帰るぞ』
そう言って、無理やり腕を掴んで立ち上がらせると、素早く恋人の荷物をひっ掴んで、
『行くぞ!』
と先を急ごうとしたら、
『えっ!ちょっと、何?!』
戸惑いの声をあげる恋人。それに答えず、
『じゃあな』
と、悪友達に挨拶をして教室を出た。廊下を早足に恋人の手は掴んだまま。途中会う人会う人に不思議な目で見られるけど、そんなのはどうでもいい。恋人も横でなんか言ってるのも無視して駐車場まで来ると、助手席のドアを開けて恋人を押し込むと、素早く自分も運転席に座った。
『もう!いったいなんなの!』
唇を尖らせ、ぷりぷり怒ってる恋人。
『……』
なんて言っていいか分からなくて、無言になる俺。あれも言いたい、これも言わなきゃって事を考えていたハズなのにいざ恋人を目の前にしたら何も言えなくて。いつから俺はこんなにも情けなくなってしまったんだ?
そんな俺をジッと恋人が見つめている視線を感じて、また居た堪れなくなっていた。
『はぁ…』
恋人のため息に、身体がビクっと跳ね上がる。そして、シートベルトをする恋人。
『送ってくれるんでしょ?』
あぁ。俺、今めっちゃ呆れられてる。言われた事にも答えられず、ただ情けなく項垂れて。落ち込みながらハンドルに顔を埋めた。
流れていく時間。恋人の視線をビシバシ感じるけど、今、MAXにヘコむ俺は全く動けずに居て。
『ねぇ…、どうしたの?』
そう聞いてくる恋人に、やっぱり何も答えられない。
『………』
『………』
ついには恋人も諦めたのか、車内には沈黙が続き、車のエンジン音と時間だけが流れていた。
カチッ
!?
不意に静かだった車内に何かを外す音がやけに大きく響いて、それが恋人のシートベルトを外す音だと認識した。
えっ!?車降りるんだ!
咄嗟にそんな事を思って、ガバッて顔を上げた。
『ごめん!この前は嘘ついてごめん!でもほんとに何もないから!でも、謝るから!だから…』
行かないで…
一気にそう言った俺の最後に付け加えた一言は小さく尻すぼんだけど、恋人にはしっかり聞こえていたようで、ビックリしたように目を見開き俺を見た。パチパチ数度瞬きをして
『あっ、発進しないならシートベルトの音が煩いと思って、外しただけなんだけど…』
なんか、ごめん。そんな恋人の言葉に、脱力した。なんだ、そうか。はぁぁ、でも良かった。なんか勢いに任せてしまったけど、言いたかった事を言えてなんだか俺の気が楽になっていた。
『ごめん。ほんとに俺、お前に冷たくされたら、なんかダメみたいなんだよ。』
しっかり恋人の目を見て言うと、
『も、嘘つかない?』
言われた言葉に、
『つかない!』
勢いよく告げる。
『ふん…、じゃ許してあげるよ。』
そう言って、何日ぶりかに優しいふんわりとした笑顔を俺に向けてくれた。やっぱ、俺にはこの笑顔がないとダメだ。
そう改めて思った。
――キミは泣いてツヨくなる
――ボクは立場ヨワくなる
でも、やっぱりキミは優しい。
分かった事が一つ。
俺はキミ無しじゃいられない…。
fin
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mokuji]