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『はぁぁぁ…』
あれから、結局、俺は謝る事はなくて、恋人がそれ以上の追求をしてくる事もなかった。でも、確実にあの日から、俺と恋人の立場が変わってしまったような気がする。
まず俺は、まったく恋人に構ってもらえなくなった。多分、前までの恋人なら、だいたい俺に時間を合わせてくれている感じだったハズ。疲れてる俺の側に居て、癒してくれたし、世話だってやいてくれていた。
だけど今は、わざわざ俺の為に予定を空けてくれるという事はしてくれなくなった。家に帰っても彼の姿はないし、甘えさせてもくれない。
何より、今は
『会話がねぇよ…』
はぁぁぁ…。何度めかのため息を俺がついていると、
『誰と会話がないって?』
おお!いつの間に居たんだ。まさか、今の聞いてたのか!昔からの悪友が俺の前の席に頬杖をついて、なんだかにやにや俺を眺めながら聞いてきた。
『…お前、いつから居たんだよ。』
いったい、どっから俺の独り言を聞いていた?なんか、すっげぇ嫌な予感がするんだけど。
『いやぁ、なんか見慣れた人がため息ばっかりついてるからさ。なんだろうな?って近寄ってみたらぶつぶつ呟いててね。おもしろいからしばらく聞いてたんだけどね。で?会話がないって?』
訳知り顔で、聞いてくるこいつ。くっそー!
こいつ絶対分かって言ってやがるなと気付いた。こいつは、恋人とも仲がいいし、何か聞いてでもいるんだろうか?でも、言うのも癪で、
『別に…』
とぼけてはみたけど、
『どうせあの人の事でしょ』
………。
あっさり言われた。なんだ、やっぱ分かってんじゃん。本当、嫌な奴。
『はぁぁぁ…』
『ほら!また、ため息。幸せ逃げるよ。』
『………うっせ、』
幸せなんてとっくに逃げてるよなんて言わない。そんな会話をしばらく続けていた。そんな所に、今の俺には耳障りなデカイ声。
『あれ〜?何何!お2人さん揃ってどうしたの〜?』
ウザい。
『うっせーよ!テメェはあっち行ってろ!』
シッシッと犬でも追い払うようにそう冷たく言うと、
『うわ〜、何、この人!ひど〜い。俺、心配してるんだからね〜!』
『頼んでねぇし!お前、目障り!』
『ちょ、何時になく俺に冷たくない?俺、なんかした!?』
『お前の存在がウザい、消えろ』
『あのね〜!俺だってね…』
苛立ちが抑えきれずに、目の前の奴に八つ当たり。だんだん、空気が不穏な物に変わる頃、
『もう…、あんたはあっち行きな。ほら、恋人が心配そうに見てるから。ねぇ、この人の相手お願い!』
悪友も心得たもんで、さっさとこいつをこいつの恋人に押し付けた。
『え!えぇー!ちょっと』
急に振られたこいつの恋人が、なんか言ってるけど…無視だ無視。ちゃんと、面倒を見ろ!俺と口論していたこいつも、そう言われ恋人を目にやると、
『この人達、ひどいんだよ〜!』
と駆け寄り泣きついていた。それをなんだかんだ言いながらもよしよしと優しく慰め相手をしてやってるその恋人を見て、なんだか胸が痛んだ気がした。羨ましいなんて思ってないからな。
『相談、乗ってやろうか?』
ぼーっとしながら、2人を見ていた俺は、そう言ってきた悪友の言葉に躊躇しながらも結局全てを話すハメになった。
* * *
『って言う訳…。なんか、あいつ強くなったんだよな。』
この前あった出来事を包み隠さず話し終わった後もぐちぐちとなんとなく文句を言う俺。そう、強くなったんだよ、あいつ。今までは、俺の言う事ややってる事に何も言わずに従っていたのに。そうだよ。急に冷たくなって、俺はどうしたらいいのか分からないんだ。
それを静かに聞いてる悪友は話し終わった俺に一言。
『それ、あの人が強くなったんじゃなくて』
『え…?』
『お前が弱くなったんじゃねーの?』
『はっ?!だって…えっ?そう、なのか?』
『あのさ、一つ言わせてもらうけど。お前がが強くいられるのはさ、誰のお陰な訳?』
『…誰、って』
『あの人だろ。あの人がお前が居心地がいいように、文句も言わないで今までお前に合わせてきてたんだよ。だから、お前が好き勝手やれてたんだろ。元々、お前はあの人の掌の中で転がされてただけなんだよ!そんな事に気付かないなんて、結構バカなんだな、お前。』
結構辛辣な事を言われた。だけど怒るよりも何よりもその言葉に愕然とした。
『だから、あの人に愛想つかされたら終わりだね。はい、さよーならって、お終い。御愁傷様。』
そう、意地の悪い笑みで俺にトドメをさしてきた。
『…終わり?』
『あの人次第だろ』
嘘だろ!そんな、終わり?嫌だ、絶対に嫌だ!そんなの、ありえねぇ!
『お、俺!どうすればいい?』
もう、なりふりなんて構ってられない。格好悪くたっていい。だって、あいつが俺から離れるなんて。そんなの許さない。手放す事なんて出来る訳がない!考えたくもない!
『お前、ちゃんと謝った?』
『えっ!だって、俺は…』
『悪くないって?何もしてないって?』
『うん、だって謝ったら、そんなの…』
認めてしまった事になる。それは嫌なんだ…。小さく呟く俺に、
『嘘、ついたんだろ?それをまず謝りなよ。』
『あっ!』
そ…、そうか…。
『あの人、嘘とか1番嫌いだからね。』
うん…そうだな。俺、こんな時も自分の事しか考えてなかった。あいつならって、甘えてた。まずは、嘘ついた事を謝らなきゃいけなかったんだな。
『そうだな。わりっ。』
『ふん。どういたしまして。』
そう言って悪友は笑うと、話は終わりとばかりに携帯を取り出し弄り始めた。しばらくして恋人がふらっと現れ、俺達の側にくると、悪友と楽しそうに話しはじめた。
それを何となしに見つめながら、不思議と、さっきまでの苛立ちは消えていて。とにかく、さっき悪友に言われた事を考えながら、善は急げだ、今日謝ろう。と、気合いを入れていた。
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mokuji]