短編 | ナノ
◇本編《俺様×健気/浮気疑惑?》 [ 2/15 ]
俺は、自分で言うのもなんだけど俺様だと思う。どっちかというと、亭主関白だし。

そんな俺の恋人は、すごく優しい奴で、言い合う事を嫌う奴。そのおかげでほとんど喧嘩なんてした事もない。

そう。喧嘩なんてした事がなかったんだ。いつだって、どんな時だって、俺が何をしたって言ったって、慈愛に満ちたような笑顔で恋人がなんでも許してくれていたから。


* * * * * * *

『ね。昨日、何してた?』

突然、恋人がそんな事を聞いてきた。

昨日?昨日は…確か、

『一人でビデオ…観てたけど』

咄嗟に俺は嘘をついてしまった。いや、別に嘘っていうかさ、突然聞かれたから、やましい事なんかなかったのに、何故か焦った俺の口をついて出たのはそんな嘘。

だって、昨日は…、

恋人をを見たら、いつも潤んでるけど今日はさらに潤んだ大きなその瞳で俺を睨んでる。


ドキン!


急に心臓が煩くなった。そして、次の言葉に咄嗟についた自分の嘘を後悔した。だってその一言で、なぜ恋人が急にそんな事を聞いてきたのか、そして何が言いたいのかが分かってしまったから。

『俺も…、昨日あそこに居た!』

キッと俺を上目遣いに睨んでそう言った。怒られてるのに、上目遣いのその顔が可愛いいななんて思ったけど、置かれた状況に気づいて青ざめた。

やべえ!見られてた?

『違う!あれは…、あの子はただの友達で…』

違う、そんなんじゃねぇんだって!焦って、事実を否定しても、それすらも、焦りすぎて怪しく聞こえる始末。

ほんとに、ほんとにそんなんじゃないのに。なんで俺、嘘なんてついたんだよ!数秒前の自分を呪った。

なんでもないんだから、最初にちゃんと言えばよかったのに。ついつい嘘をついた。

なんだろう。いつもだったら、ごめんって謝れば、仕方ないって優しい恋人は許してくれるのに。なんか、今日は違っていて。いつにない恋人の雰囲気に、嫌な汗が吹き出てくる。

言えば言う程言葉は上擦りで、泣きそうに歪む恋人の責める瞳が俺の胸に突き刺さる。

マズイ…
ほんとに、マズイ…

わかってる。悪いのは、嘘をついた俺。だけど信じてくれよ!誤解なんだ!嘘をついてしまったけど、お前が考えているような事じゃない。

嘘がバレた今日の俺の立場は弱くなる。

ねぇ、聞いてくれよ?本当に、アレは違うんだ。だからそんな顔しないで?

心を落ち着けて、そっと恋人を抱きしめようと手を伸ばす。

”違うよ、ほんとに違う。俺が好きなのはお前なんだから。”

そう強く抱きしめて耳元で囁こうとしたのに…

『いや!さわらないで!』

その手を払いのけられた。ショックだった。一瞬、かっとなった。

だから思わず、

『俺が信用できないのかよ!』

いつものように強気に叫んだ。逆ギレだ。そしたらお前は、いつもみたいに許してくれるだろ?期待を込めて恋人を見たら、

『信じられるわけない!嘘…ついたくせに!』

ポロポロと、ついに恋人の大きな瞳からは堰を切ったようように涙がこぼれていて。その痛々しい泣き顔で俺に近付いてくる恋人。思わず、俺は後ずさる。

嫌な汗が全身から吹き出してくる。この場から今すぐ逃げ出したい!だけど逃げられない。

ほんとなんだ。信じてもらえないかもしれないけど、ほんとになんでもない。俺は無実なんだって!だけど、それをお前に信じて貰える術を今の俺は持っていなくて。時間だけが無情にも過ぎ去っていく。

いい加減で、お前の優しさにあぐらをかいていて、だからいざこんな立場になったらてんでダメな情けない俺だけど。

だけど、謝りたくない。だって、謝ったら…認めてしまった事になる。ほんとうに…、何もやましい事はないから。俺は本当に無実なんだから。

だから、
だから、
いつもみたいに許してよ。
笑ってよ。

なんで、今日に限ってそんなに俺を追い詰めるんだよ!

なぁ、


泣くなよ…。泣かないでくれよ。お前の泣き顔はみたくない。お前には笑っていて欲しい。俺はお前の笑顔が1番好きなんだ。

だから少しでいいから、俺の話を聞いてくれないか?そしたらお前はきっと笑ってくれるんだ。

こんなハズじゃなかった。今日は、イチャイチャ楽しくするハズだった。

お前が好きだ!誰よりも好きなんだ。いまさらお前には届かない言葉かもしれないけど。すっかり信用は失くしてしまったかもしれない俺だけど。

信じてくれよ。

時間だけが過ぎて
恋人はずっと泣いていて

俺はただそれを何も出来ずに佇んでいるだけしかできない。


――…キミは泣いてツヨくなる

それが始まり…



fin


攻めの独白。名前も出てきてないし。
この話は続編があります。
なんだかんだで、表記が変わってしまうかも?
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