短編 | ナノ
◇4 [ 10/15 ]
ごめん。本当に、ごめんなさい。

光生。

これは、俺の我が儘でありエゴだ。

本当なら、光生は女性と恋愛して、結婚して、光生に似た可愛い子供も授かって。そんな普通の幸せを送れてるはずだった。輝かしい未来が貴方にはあった。
 
だけどその当たり前の幸せを、俺が邪魔していた。これは、罰なのかな?

だけど、もう少し。もう少しだから。もうすぐ貴方を解放してあげるから。未来の貴方の奥さんに、貴方を返してあげるから。だから、もう少しだけ俺に光生の時間を下さい。

あとほんの少しでいいから、光生の中に、俺という存在を遺させて…。

お願いします。
 
「く…ぅ…うぅ…ぇぅ…」

悔しいな。どんなに綺麗事を並べたって、自分の気持ちは誤魔化せないなぁ…。

そうだよ。本当は、もっと光生の側に居たかった。貴方と、もっとペアを組んで居たかった。パートナーとして滑りたかった。

同じモノを追いかけ、一喜一憂を共にして。ずっと側で笑っていたかったよ。

もう叶わないけど。
 
どれくらいの時間が経ったんだろう。ほんの数分だったかもしれない。少しだけ自分の運命を哀しんで泣いて…ふと、窓辺にある鉢植えに目がいった。

白のポインセチア

クリスマスの近いこの時期。赤のポインセチアばかりの中、珍しい白い色のポインセチア。店員さんが花言葉を教えてくれた。色によって微妙に意味が違うんだとか。そういえば、昔観たドラマの中でそんな花言葉があったな?と、気にいって購入したこの花。そっと、光生の家に持ってきて置いたのは数日前。
 
ジッと見つめていたら、ハッと何かを思い付いた。急いで室内に戻るとペンとノートを取り出した。
 
そして、白のポインセチアの花言葉を思い出す。

この花言葉のように…と、そう考えながら。



ボーっとポインセチアを見つめていたら、ふわっと、優しい温かい腕に包まれ、嗅ぎなれた匂いが香り、目頭が滲む。

「何してるの?風邪…ひいちゃうよ」
 
光生
 
この温かい腕を、匂いを忘れたくない。また、出そうになる涙をグッと堪えて、
 
「うん…さむい、ね。でも…光生は温かいよ」
 
光生の腕に自分の指をそっと添えて。もう、本当に残り少ない俺の命。
 
このまま…貴方の腕の中で終わらせられたら幸せなのかな?



 
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