短編 | ナノ
◇2 [ 8/15 ]
「潤夜!大丈夫なのか?顔色がスゴク悪い。病院にはちゃんと行ってるのか?」
 
いつもいつも、俺の事を心配して気にかけてくれる光生。岩谷 光生(いわたに こうき)は、俺の恋人であり、スケートのパートナーだ。俺の身体の調子が少しでもおかしくなると、誰よりも早く気づく。そして病院が嫌いで中々診て貰おうとしない俺に、早く病院へ行くように進言する。今回も最初の頃は毎日のように、病院に行け!仕事を休めと、口うるさかった事を思い出す。あの時に彼が行ったようにすぐに病院に行っていたら…、治療していたら…、そうしたら手遅れになっている事はなかったんだろうか。大好きなスケートを滑り、これからもずっと君の側にいる。そんか未来が待っていたんだろうか。

今更そんな事を思ってもすでに遅いのだけれど。今は、とにかく最期のその時まで彼には、気付かれないように、気付かれちゃいけないんだ。俺の様子を常にチェックして、少しの変化も見逃さない敏感な彼だから。気付かれてしまえば彼がスケートを続けさせてはくれないだろう。それではダメなんだ。俺が残せる物は全て遺したいから。俺は弱いから。ずるいから。何も遺せない状態で消えたくはない。少しでもいい。ああ、並木潤夜って居たよね。すごかったよね。岩谷光生のパートナーは並木潤夜が最高だった。そう言われたい。そういうものを遺したいと思うんだ。
 
だから今回は、俺も真剣だ。細心の注意を払あ、なんでもないように。少し風邪が長引いてるんだと嘘ぶいて。俺の一世一代の演技。
なけなしの意地と我慢。俺の嘘を見破らないで、そう思いながらなんとか今日までやり過ごしてきた。
 
でも…不思議なもので。きっともう俺の残された時間は少ないのだろう。最近、恐いくらいに体調がいいんだ。自分の持てる力を全てだし切れている。いや、それ以上の不思議な力が出せているのかな?

そう、最期に一花咲かせるかのように。今、俺は絶好調だ。自分の身体。もう解ってるよ。身体が軽い。リンクの上を滑る俺を皆が絶賛し、期待をする。それを間近で見る光生も安心してるようだ。

まだ大丈夫。俺は、最期までやれる。だから見ていて。俺のラストをその目に焼き付けて。

お願いします。

光生、俺の大切な人。
 
ゴメンね。こんな風に騙す俺を君は責めるんだろうか?最期の時は近い。

「光生、今日は光生の家に行きたいんだけど、行ってもいいかな?」


 
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