◇5
『護と…何かありました?』
そう聞けば、弾かれるように
『違っ…!』
慌てて否定する、あなた。もう、すでにあなたは俺にひとつ嘘をついているのに。だから、おそらく何もなかっただろう事も素直に信じる事ができなかった。
俺は知ってる。
護は、彼の事が好きだ。
付き合いも、俺より長いし、俺よりなんだかんだ大人で、気遣いもできる優しい人だ。
なぜ、彼が選んだのは護じゃなく俺だったのか?彼の恋人になれて嬉しいハズなのにその想いがいつまでも俺の心の中にくすぶっていて、消えてなくなる事はなかった。
だって俺は護に対して少なからず劣等感を持っていたから。
元々、彼も護が好きだったハズだ。彼が好きだったから、ずっと彼を見ていてすぐに彼の視線が誰に向いてるかなんてすぐに分かった。
当然、護の視線にだってすぐに気づいた。
所詮、両思い。お互いがお互いを意識しているのに、その距離感を壊したくはなかったのか、それを言葉にする事もなく。そんな2人が遠慮してる間に横から俺がかっさらった。
恋人になってからも、俺はどこか焦っていて。仕事だろうがプライベートだろうが関係なくイチャついて仲がいい事をアピールして、彼が俺のモノだと見せつける。
だけど、どんなに見せつけたって、恋人であるという事実があったとしても彼が俺のモノであるという安心感は得られなかったんだろう。
俺がどんなに彼と一緒にいたって、彼と護が創り出す空気感にはならない。
俺と彼の空気感は付き合いたての恋人だ。いや、事実恋人だけど。所構わずイチャイチャして…、今思えば薄っぺらい関係のようにも見えるだろう。
だけど、あの2人はまるで夫婦だ。表立って仲がいいようには見えないかもしれない。だけど、まるでお互いが側に居て当たり前のような雰囲気が2人にはある。穏やかで信じあっているように俺には感じた。
護は彼を理解し、彼もまた護を理解して。そんな絶対的信頼間を見せる2人を感じる度に、俺は焦りを感じていたんだろう。
今でも、考える事がある。護なら…俺なんかより、彼を幸せにしてあげられるんじゃないかって。だからこそ、彼が頼ったのが護だって知って逆に冷静になってるのかもしれない。
あぁ、やっぱりなって。
『しばらく…俺達はね。距離を置いた方がいいのかもしれませんね…』
だからだろうか、そんな言葉が口から出ていた。
『…っ!やだ!…やだやだやだ…』
彼にしては、ひどく興奮し泣きじゃくった。そんな彼に、あぁ…少しは愛されているのかな?って嬉しくなった気がするけれど。
でも、今の俺にはもう彼を信じる事ができなかったんだ。
『ほら…今から撮影でしょ。せっかくのメイクが台なしです。』
だから、泣きやんで。そう言えば
『何もない…マモくんとはほんとに何も…』
必死で、彼は訴えるけど、今の俺はやっぱり信じる事なんてできなくて。
『今は…夕姫の事、信じられない。嘘をついたのに信じられると思いますか?』
そんな言葉を彼に突き付けた。
『…ぅぅ…』
彼もそんな俺の想いを悟ったのか、静かに涙して。そうしてしばらく静かに時間が過ぎていって。
コンコン
『真木さん。お願いします!』
スタッフの呼びにきた声に、彼は何かを決意したように、
『俺…しゅうの事待ってるから…』
そう俺に告げ、撮影に向かった。