◇16

お互い、真剣に見つめ合っていた。時間にすれば数秒間が、何時間にも感じられる。
 
ギュッ
 
いきなり、夕姫が抱き着いてきた。え…?
 
『俺がダメって言ったら…ナナはじゃあ諦めんの?』
 
俺に抱き着き胸に顔を埋めて夕姫は悲しそうにそう呟いた。久しぶりに嗅ぐ夕姫の匂いに酔いそうになる。それにくらり
としながら、まだ続く夕姫の言葉に気を引き締めた。

『俺は、俺だって…ナナの事忘れられなかった。だって…』
 
だって?
 
『ナナの事…今でも俺は愛してるから…』
 
小さな小さな声だったけど、俺の心に大きく響いてきた言葉。

俺は、ホッとしたと同時に今までの無理が一気にきたんだろうか。その言葉がストンと胸に落ちてきたと同時に、緊張の糸が一気に切れたかのように全身から力が抜けていった。
 
そのまま、俺の意識は崩れ落ちた身体と共に薄れゆく。
 
しゅう!しゅう!

もうずっと聴けなかった、ナナではない俺の名前を叫ぶ夕姫の声が小さく小さくなっていく…。

あぁ…。俺、またあなたに心配をかけてるね。ごめんなさい。だけどもう限界。今度意識が戻ったら、そしたら…。もう、貴方を絶対に悲しませたりはしないから。約束するよ。
 
護にも俺、一生懸命謝ります。だから、もし夕姫が同じ気持ちなら、俺ともう一度…

そのまま俺の意識はブラックアウトした。


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