◇15
『夕姫…』
深呼吸一つ。そして、ゆっくり彼の近くに進み、彼の名を呼ぶとビクッと夕姫の身体がはねた。
『これ、まだ持っててくれたんですね。なんでなんですか?』
我ながら、意地悪な質問だと思う。だけど俺にはこういう事しか出来ないんです。俺の質問に俯いたまま、夕姫は何も答えない。
『ねぇ、俺、期待してもいいの?あなたを…まだ愛していてもいいですか?』
それでも、夕姫は何も答えない。でもそれでいい。だから俺は続ける。
『俺は…あなたの事が好き過ぎるんです。依存してるんです。あなたがいないと七宮柊士でいられない。好きでいる事を否定されるなら、もう一緒にはいられないんです…』
やはり俺は狡い奴だ。こんな聞き方。だけど、俺もハッキリさせたいんです。なり振りなんて構っていられない。卑怯だと言われたって、今何故このリングを夕姫が持っていてくれたのか。weaZerを辞めると俺が言った事に対してこんなにも取り乱しているのか。
彼の。夕姫の本心を聞きたい。
『狡い…』
『自覚はあります』
『意地悪だ』
『知ってたでしょ?』
『…』
『…』
にこりと、夕姫に向けて俺は笑ってみた。夕姫も笑ってくれるかもしれないから。
なのに、
『嫌いだ…』
『えっ…っ…』
ちょ、ちょっと!あれ?どこで間違ったの?思わず焦ってしまう。ここにきて、やっぱり嫌われましたじゃシャレにならないじゃないか!
顔を少し蒼ざめさせて焦る俺に、
『んふふ』
ようやく彼が笑顔を見せた。まるで悪戯が成功したように彼が可愛いらしく笑ってくれた。
すっと力が抜けて、俺はなんだか泣きそうになりながら、
『勘弁して下さい…。』
情けない声が漏れる。それを聞いて、クスクスとまだ笑ってる夕姫は可愛いいですけどね。してやられた感はあるけれど、まだ肝心の答えが聞けていない。
『諦め悪いんです、俺。何においてもあなたが1番大事なんです。少しでも希望があるなら、絶対に諦めたくない。』
もう一度この手に取り戻したいんだよ、俺は。まだ、夕姫がこんなにも大好きなんだから。