◇14
『…やだ…』
えっ?突然、小さな声で夕姫が呟いた。
『そんなの…いやだ!?』
そう叫ぶと、夕姫は俺に何かをぶつけて、傘もほうり出して走り去っていってしまった。俺は突然の事にボーゼンとなり、彼が走り去った方向を見つめた。
今、彼は何を…?
何かがぶつかった頬を摩りながら、視線はその何かを探し彷徨わせ動いた。
ふと目に入るキラリと光る物。それを目にして驚愕に目が見開く。だってそれは、あの時俺があなたに渡した。俺がずっと未練たらしく捨てられずにいた2人のペアリングだったのだから。
弾かれるように俺はそれを拾うと、慌てて雨の中傘を置いて走りだした彼を追って行った。
なんで!!なんで、まだ彼がこれを?考える事はイロイロあったけど、とにかく彼を。今は、夕姫を追い掛けないと!
どこだ?いったいどこに行ったんだろう?焦る気持ちと、もしかしたら…という希望の光。
走って走って
そうしてようやく見つけた。
雨の中、うずくまって泣いている小さな身体。
愛しい愛しい俺の大事な宝物。