◇10
『夕姫。ちょっと話があるんです。時間取れないですか?』
 
突然、俺の携帯にナナから着信があった。この1年間、表示される事がなかった彼の名前。それを目にした時、息が止まるかと思った。本当に…、本当にビックリしたんだ。
 
ナナから連絡があったのなんて、別れて以来の事だし、着信表示のディスプレイを何度も見間違いじゃないかって何度も何度も見返した。
 
しばらく、ディスプレイとにらめっこ。

落ち着け。落ち着けよ…。そう心の中で自分自身を叱咤して、深呼吸して、なんとか心を落ち着けると、ゆっくりと通話ボタンを押した。そうして、1年振りのナナと俺の会話。

ずっと、あれ以来ナナに避け続けられていた俺。ナナはとにかく仕事を詰め込み、自分自身を追い詰めてるようだった。見ていてとても痛々しい姿。

仕事では普通に見えるけど、もう俺に触れたりはしない。ううん、仕事中当たり障りなく触れて来る事はあった。でもそれは義務的で、触れてもそっとさりげなく、そしてすぐに離れてしまう。それはとても絶妙のタイミングで。きっと、俺やメンバーにしか解らないくらいの微々たる違い。
 
楽屋に戻れば、隙を見せずさっさっと次の仕事へ向かう彼。本当にまったく話しかける隙がなかった。でも、そんな状況を作ってしまったのは他でもない俺だから。俺を見るナナが辛そうなだったのを知っている。無理をしているのがよく分かる。
 
だから俺は、いつでもナナが前みたいに話しかけてきてもいいように。俺は何気ない風を装おうと、そうできるようにしようと思っていた。
 
だから突然の電話に動揺はしたけど、上手く対応出来たと思う。

『うん、いいよ』
 
って。自分でも、拍子抜けするくらいゆるい返事を返していた。でも、内心はドキドキで。心臓が煩いくらいに鳴っていた。だけど、笑ったんだ。ナナが電話口だけど、

『ふふふ』

って、昔と変わらない柔らかい声。俺は嬉しかった。泣きそうな位嬉しかったよ。

電話を切った後も話ってなんだろうかって?考えれば考える程、ドキドキが止まらなくなった。
 
『weaZer…辞めるなんて言わないよね…?』
 
なんとなく、そんな不安が俺の中で大きくなっていた。だって、ナナの精神も身体ももう…ボロボロだから。それがすごくよく分かるから。
 
よく1年間もったものだと思う位に、ナナは疲弊していたから。

もし本当にナナが辞めるって俺に告げたら?俺はどうするんだろうか…

そこまで考えて、その嫌な考えを振り切るようにブルブルと首を降っていた。そんな訳ない。ナナが俺から離れる事なんて…


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