◇6

『夕姫…。ちょっと話があるんです。時間取れないですか?』

1年振りに、彼に電話をしてそう告げた。こっちは、ドキドキして電話をかける時も、出てくれなかったら?とか、うまく喋れるだろうか?とか、我ながら情けないとは思うけど、結構勇気がいった。
 
なのに…

電話口の彼は、そんな俺の気持ちとは裏腹に、1年前と変わらないなんの戸惑いもないように、
 
『うん、いいよ』
 
電話でも伝わる。彼の纏う彼特有の癒しの空気が伝わってきた。そのふわりとした優しい空気は、今まで俺が避け続けてた事とか、別れた事実だって、なかったんじゃないかって。そう錯覚してしまいそうになって、なんだかそんな彼の相変わらずな事に思わず笑ってしまう。
 
『ふふふ…』

『えっ?何?ナナ、なんで笑ってるの?』

『だって…。あなたちっとも変わらないんですもん』

『?』

『じゃあ、後で』
 
そう言って戸惑う彼をそのままに、さっさと電話をきった。何も変わらなかった彼。自分だけがやはりこだわっていたんだと、改めて思うとやはり胸がズキリと痛む。
 
さぁ、でももうホントに最後なんだから。気合いを入れなくては。


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