◇13
最近…、彼が笑うようになった。
あの日、彼に距離を置こうと言ってから1ヶ月。実は、自分から言ってしまった事なのにすぐに後悔した俺。彼が居なくなって、彼に触れられなくなって。自分の出した答えなのにそれが思いの他、ダメージを受けていた。
だけど、辛かったけど彼があの日から笑えなくなっている事に気付いた。笑っているのに笑えていない。ほんの小さな違いではあるけれど俺には解る。そんな風にさせているのが俺のせいである事に、愚かにも俺は嬉しく思ってしまっていたんだ。
会えないのは辛い。だけど、そんな夕姫が俺の事を想っている。俺の事だけを考えてるその事実が愛されていると今の状態を甘んじて受け入れていた。それが崩壊の一歩で有る事に気付きもせずに。なんて俺は傲慢なんだろうか。
一度、護に呼ばれた。
『ナナはこのままでいいの?』
そう言われても俺には答える事ができない。こいつは何を言っているんだ?このままでいいか?そんなのいい訳ない。ないけれど、俺にはもうどうすればいいのかが解らなくなっていたんだ。俺の夕姫に対する想いは既に歪んでしまっていたんだろう。何も答えない俺に、護が告げる。
『…だったら…俺が夕姫くんを支えるよ。』
護のその言葉に、俺はやっぱり何も答える事はできなかった。ただ、護の言葉に馬鹿な事を言っているとしか思えていなかった。夕姫は俺を愛してるんだ。お前じゃない、と。
元々、口数が少ない夕姫は俺との事があって、さらに口数が減り、笑顔も少なくなっていた事を気付いていたのに、俺に会えないからだと思い上がって。それに喜びを感じて真実を見逃し正しい判断ができなくたっていたから。
そんな彼が最近、笑顔を見せる。それは嘘の笑顔ではない心からの笑顔。そして、その傍らに居たのは俺ではない。
予感はあった。
『ナナ…今日…時間あるかな…』
何かを決意したような彼。その言葉に、俺も覚悟を決めないといけないのかもしれない。だって、彼は俺をナナと呼んだから。しゅうではなく、ナナ…と。