◇10

―翌朝、
 
『夕姫くん?!大変!起きて、時間!』
 
慌てるマモくんの声で起こされた。家に一度帰る時間もなくて、たまたま今日はマモくんと一緒の雑誌の撮影だったから、そのまま2人マモくんの車で撮影所に慌てて向かう事になった。
 
まさか、それをしゅうに見られてるなんて思っていなかった。楽屋に着いてしばらくして、先にマモくんが呼ばれて行った。

一人になった楽屋で、昨日の自分な愚かな行動を思い出していた。

俺を見るしゅうの冷たい目。声。それを思い出して、思わずブルリと震えた身体を自分自身でぎゅっと強く抱きしめた時、

ガチャッ

ノックもなしに突然ドアが開く音がした。

入口を見ると

『しゅ…っ』

なんで?そこには、無表情に俺を見るしゅうが居た。今日は、最初は俺とマモくんが前半。しゅうと他のメンバーは後半の撮影だったのでまだ時間があるハズ。最近は、皆、スケジュールがタイトな為、少しでも休む時間が欲しいハズで。だからまだ、しゅうが来る時間には早すぎる。しゅうが来るまでに自分を落ち着かせたかった。まだ時間はあるハズだったのに…

なんで、なんで今この時間にしゅうがここにいるの?





しばらくお互い無言の時間が流れる。その間2人共お互いから目を離さず、重い空気が流れはじめて居た堪れなくなった頃、

『昨日は、そのまま帰ったんですか?』

『電話…したんですけど』

『すごく心配しました。』

眈々と…、しかし次々と矢継ぎ早に放たれるしゅうからの質問に、最初はビクビクしていた俺だったけど、どこか心配を滲ませるしゅうの言葉が思いの他優しく感じられ、

心配…してくれたんだ。そう思うと不謹慎だけど嬉しくて。忙しいのに自分が心配で、こんな朝早くにここに居てくれるんだとか、しゅうはまだ俺の事を愛してくれている。バカな俺は、それがしゅうの巧みな罠だという事にまったく気付けずにいた。

『もう一度聞きます。昨日はそのまま帰ったんですね。』
 
もう、昨日の自分の傍迷惑な行動も、マモくんの家に言った罪悪感すらも綺麗さっぱりなくなっていて、

ただただしゅうに心配して貰えている事が嬉しくて。自分の事しか考えられない、自分勝手で我が儘な俺の安心しきった心は次の瞬間絶望でいっぱいになる。


 
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