◇8
しゅうが居なくなってかなりの時間が経ってしまっていたと思う。それでも俺はその場から動く事が出来ずにいた。
泣いて泣いて…
どうすればいいのか…
どうしたいのか…
自分で自分が分からなかった。何度かしゅうから着信があったけど、怖くて出る事ができなくて。また、ため息をつかれたら?もう、俺なんて愛想が尽きてしまったんじゃないか?そんな嫌な考えばかりが思い浮かんできて。しゅうの着信が途切れても、携帯の画面をジッと見つめている事しかできなかった。
何度かそんな事を繰り返し、どのくらい時間が過ぎたんだろうか…。不意に自分は何かを思い、無意識に一つの番号を押していた。
【マモくん】
プルルルル
今が深夜で有る事とか、迷惑だとか…。やっぱりこの時の俺は冷静な判断が出来なかったんだろう。今の俺には自分の事しか考えられない最低な奴で。
『もしもし…夕姫くん?』
呼び出しのコール音が途切れ、今の俺には酷く安心できた優しい、そして少し心配したようなマモくんの声を聞いて、更に涙が止まらなくなってしまった。
『マ…く…ん』
グスッ。泣いていたとわかるような上手く言葉に出来ない声。
『ゆ、夕姫くん!泣いてるの?今、どこ!』
『………』
『夕姫くん。どこにいるの?教えて』
優しく、優しく。不安で埋め尽くされ冷たく冷え切ってしまっていた俺の心を暖かくしてくれるような俺を落ち着かせ、そして安心できる声。
『しゅうの…家…』
『解った!すぐに行くから、そこで待っててね。』
たったそれだけ。なのに、全て分かってくれているように多くを聞かないでくれたマモくんの優しさがありがたかった。電話を切ったマモくんは、ホントにそれからすぐに来てくれた。
マモくんの車に乗って、家…送るよ?と言われたけど。家にはしゅうがいる気がして…、フルフルと力なく首を振る。
『…じゃあ…俺の家に来る?』
マモくんのその言葉に俺はコクンと頷いた。