◇7
 
あの日ずっとしゅうに会えなくて、寂しくて、我慢も限界だった。そんな時に夢を見たんだ。
 
すごく怖い夢…。

しゅうが俺から離れていく夢。起きてからしばらく上手く呼吸が出来なくて。考えれば考える程不安は大きくなって。しゅうがまだ撮影だったのは分かっていた。明日も仕事があるし、久しぶりに一緒の仕事。時間は別だけど、会おうと思えば会える。だから今日は会わない方がいいという事だって分かってたんだ。明日まで待つのが正しい判断。

それでも、それでも俺はしゅうに会いたかった。会って安心したかった。しゅうに、そんなのただの夢だって言って優しく抱きしめてもらいたかった。しゅうがちゃんとここにいるんだって事を実感したかったんだ。

普段の俺だったらそれが自分のエゴで我儘だって事は十分に理解しているけれど、この時の俺はしばらくしゅうに会えていなかったし、夢のせいで不安定で…。冷静な判断が出来ていなかった。

考えれば考える程、しゅうが離れていくような恐怖に襲われ、深夜である事もお構いなくいてもたってもいられなくて、しゅうの家に急いだ。

まだしゅうは帰ってない。中に入るのは嫌だった。暗闇の、部屋の主が居ない場所でしゅうを待てば不安がどんどん大きくなる事は分かり切っていたから。自分がどういう立場かは辛うじて分かっていた。だから、しゅうの部屋の前で待つという事はせずに、少し離れた所でしゅうの帰りを今か今かと待っていた。

どれくらい経っただろう…。少し入り組んだ場所に蹲る俺の耳にコツコツと誰かの足音が聞こえてきた。視界を凝らせば、それは待ちわびていた人。しゅうだった。

酷く疲れているように見える。時刻はすでに日付が変わっていて。あんなに会いたかったのに、抱きしめて欲しかったのに。急に今の自分の勝手な行動の現実を理解して、すぐには声をかける事が出来なくて。そこから一歩も動けずにしばらくどうしようか考えた。

だけど、やっぱりこのまま会わずに帰る事は出来ず、意を決してしゅうの携帯に電話をした。

案の定こんな時間の電話にしゅうは驚きため息をつかれ。今日は会えないと言われた。でも、俺がしゅうの家の前にいるって言ったら、急にしゅうの声が怒ったように冷たくなった。

でも、それも一瞬の事で、またため息が聞こえ、しばらくして玄関のドアが開いた。俺は俯いていた。あんなに会いたくて仕方なかったしゅう。すぐにでもしゅうの顔が見たかったハズなのに、今はその、しゅうの顔を見るのが怖くて中々顔があげられずにいる。

また、しゅうに溜息をつかれてしまった。一瞬背筋が凍るような気がした。

怖い…怖い…

さっきの夢がフラッシュバックした。中々顔を上げない俺。ここは玄関口。深夜とはいえ、いつ誰に見られるか分からない。とりあえず中へと促そうと伸ばされたしゅうの手。

思わず、俺はそのしゅうの手から逃れてしまった。なんだか、この手に触れたらダメな気がしてしまったから。怖かった。ピリピリとしているしゅうが。

そんな俺の行動が、更にしゅうをイラッとさせてしまっているのが伝わってきた。

ダメだ。
ここにいちゃダメなんだ!
 
『帰る!!』

いつのまにか涙が流れていた。自分でも何がしたいのか解らない。自分の感情をどうしようもできない。でも、とにかく今、しゅうの側には居たくなかった。いや、居られなかった。これ以上しゅうに愛想を尽かされたくなかったから。

もう一度

『っ…!帰る…!ごめんなさい』

そう言って、俺はしゅうの側を離れ、走ってその場から逃げ出してしまった。なんて俺は愚かなんだろう。自分の馬鹿さ加減に嫌気がさす。
 
エレベーターを降り、何故か冷静になってきた頭でしゅうが追い掛けてきてる事が分かり、とっさに物影に隠れた。

そのすぐ後、階段から駆け下りてきたしゅうが、しばらく周りをキョロキョロした後、駐車場にむかい車に乗っ去って行く姿を俺は息を潜めて見て居たが、しゅうが去ってしばらくは動けず。泣きながらその方向をただ見つめていた。




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