「相変わらず、神原の部屋って簡素な」
「そ、そう?」
「俺の部屋ゲームですっげぇもん。でもおまえの家ってコアなゲームあったりすんだよなー」

 日の光がカーテンのレースを越し、部屋の中に眩い日差しを差し込んでくる。
 絶好のデート日和の天候の中、オレ達は不健全に部屋に閉じこもりゲームをプレイする。
 坂上は基本的に人の話を聞かないマイペースだ。
 勉強を教えてくれという名目で、朝一でオレの部屋に、何の気兼ねもなく入ってきた。いや、約束してたけどね。
 昨日オレ緊張しすぎて全然寝られなかったのに…! 
 なんでこいつこんな無邪気なの、可愛いからいいけど! よくないけど、でもいいけど!

 たまに、本気で、もしもオレみたいな奇特な人間が万が一、億が一に現れたらどうするんだと考える。
 人間はいろんな考えの持ち主がいるんだぞ! 坂上のこと可愛いって思っちゃってるオレがいるみたいにさ!
 そんなオレの思考なぞ露知らず、坂上は勝手知ったる我が家のように、家から持ってきていたゲームをセットしていた。

 本当、坂上って自由だよな。

 悶々と不健全な思考を働かせていると、ドギャーン! そんな、間の抜けた効果音が液晶の向こうから聞こえてきた。
 画面に映りこんでいる戦闘機は点滅し、飛んでくる光線は一時停止していた。

「神原なにしてんだよー」
「わ、悪ィ……考え事」
「ふぅん。別にいいけど、おまえ死ぬぞー」
「ああ! ライフがー!」
「ははっ、間抜けー」

 ベッドに腰をかけている坂上は無邪気に笑みを向け、その笑顔をあっけなく引っ込める。
 視線は迷うことなく画面に向かってオレを見ない。
 いや、いいけどね。わかってるからさ。あっという間に画面のライフは0、ちなみにオレのライフも0だ。

「あー勝った勝った」
「坂上容赦ないよね…いや、そんなところも可愛いけど」
「へいへい。神原ァ、なんか新しいゲームねぇの?」
「高校生の所得舐めんなよ坂上くん」
「虚しいわ……。と、言いつつ新しいゲーム買えばおまえここの棚に入れるんだよな」

 当初の目的は勉強を教えてもらう筈だったのに、坂上は勉強どころかゲームに夢中だ。
 花畑にいる妖精のように愛らしい横顔が眺めているのは、この間買ったスプラッタ系のホラーゲームだ。
 坂上に出会ってから、彼に興味を持ち、なんだかんだオレもそれなりにゲームの面白さを知った。

 今までそこまで熱中してプレイしたことなかったし。坂上に熱弁され購入したソフトは一体どれだけか。オレ、割と本気で坂上にならだまされても幸せだと思う。
 嬉々としている坂上を眺めつつ、つけっ放しのハードの電源を落とす。
 熱がこもり始めたそれに手で情けない風を送った時、カツン。と、頭の上に硬い感触が落ちてきた。

「ん?」
「神原殿、おぬしも悪よの」
「へ?」
「「監禁乙女〜放課後の白濁〜」いやぁ、分かりやすいタイトルだなぁ」

 にやにやにや。いやらしく口角を上げて笑みを作っている坂上が持っているものは、明らかにアレ系の、いわゆるR18のパッケージの、エロゲと言われるものだった。
 視界に入れ、少し首を傾げる。
 こういう二次元の女の子は三次元以上にオレの感性には触れない。
 こんなゲーム購入した記憶もなければ、覚えも――。

「あ、え、あぁ!? いや、坂上これは違う! オレんじゃねぇ!」
「誰の?」
「クラスの! 安達くん!」
「……安達君、あんなほんわかしてるのにこういうの買うのか」
「お勧めって言われて持ってきたのがこれで……目に入れないようにしてて忘れてた」

 返すタイミングも掴みづらい、パッケージの女の子のいやらしい顔。
 さすがに、オレも若干引いた。いや、好きな人は好きだと思うけど、オレの今好きな人は坂上だしね!

「そういや、坂上ってエロゲはするの?」
「しねぇなー…。だって年齢制限あるし。俺、ゲーム好きだけどこういうキャラ好きってわけじゃないし」

 その割に、まじまじと眺めてしまうのは、やっぱり男の子だからだろうか。
 妙にそわそわした態度の坂上が可愛くて胸の中がきゅーんってなる。
 坂上の手にあったディスクに手を伸ばし、パソコンに入れた。起動音の後、テレビに映像が映る。
 ケーブルでパソコンとテレビを繋いでいるから、大画面にゲームの映像が映っていた。

「坂上、一緒にしてみよ」
「え、いや、俺は」
「坂上ゲーマーなんだし。この程度のもの、楽勝だろ?」
「いや……ってか、神原は興味あるわけ? こういうゲーム。パッケージからして結構きつそうだけど」

 戸惑う顔、少しだけ視線が下がる。
 まじまじとパッケージと、画面をちらちら見比べる坂上。声は微かに上ずっていた。

「興味はあるよ」

 このゲームをプレイする、坂上にだけど。



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