坂上は勉強があまり好きじゃない。まあ、普通の学生の考えならそれは普通なんだと思う。
 ゲーマーで、勉強を家でしないからどちらかといえば頭の悪い坂上は、テスト直前にオレに頼ってくる。
 ノートだったり、課題だったり、ヤマをはったり。それは色々だけど、結果坂上は俺に頼ってくる。
 オレはオレで好きな奴に頼られるから嬉しいけど。

「なぁ、明日から神原の家に泊まっていいかー?」
「……わんもあ」
「だからさ、明日から三連休だろ。神原の家に泊まっていいかっつの」

 今までの経験から、坂上用に授業のまとめノートをせっせと作っていたけど、泊まりたいという言葉に頭がフリーズを起こした。
 坂上はオレのことを信用している。友達として。
 散々オレは坂上が好きだって言っているのに、友達の延長線上で坂上は考えている。いや、別に、いいけど。

 オレだって男友達に好かれてるとか、真剣に考えられないし、本当の意味でオレの気持ちを知られたら坂上にこれからどう接したらいいかわからないし。
 なんて、悶々と考え込んでいるとじぃっと坂上がオレを見ている。
 ああ、可愛い。
 黒い髪も、大きな目も、子どもっぽさが残っている態度も、なんだかんだでオレに甘い部分も、全部可愛い。

 だから、どうすればいいんだろうと思う。

 オレの家族はあまり家に帰らない。こういえば語弊があるけど家族仲はいい方だ。
 ただ、オレが高校に入学してある程度自分で何でもできるようになったから、仕事で出張を増やしたり、会社に泊まりこむことが多くなった。
 この連休、きっと坂上とオレは二人きりだ。坂上だって、オレの家の事情は知っている。
 友達だからこうして気軽に接するし、友達だから試験勉強で家に泊まりに来る。

「えぇっと、オレの家、たぶんオレしかいないよ?」
「知ってるし」
「いや、だからさ、坂上さ」
「神原勉強できんじゃん! 助けてくれってー!」

 頼りにされているのは嬉しいです。本気嬉しいです。上目遣いとかたまらんもん。
 でも、でもね!
 オレ割と、本気で、坂上がオレの部屋に入った時点で普段こう、色々言いながら堪えているけど、我慢できる自信がない!
 思春期を過ぎたはずなのに、坂上見てたら無条件で興奮するのになんでこいつこんなに無防備なんだよ…!

 いや、オレが坂上好きなこと、坂上が本当の意味で知らないだけなんだけどね…。
 断りたいけど断りたくないし、坂上可愛いし、ちゅーしたいし、手とか繋ぎたいし、ここ教室だしああああああ!

「坂上可愛いから抱きしめていい?」
「脈略がねェにもほどがある」
「オレがオレの家で我慢するためには、ある程度坂上にも我慢してもらいたいです」
「意味わかんねー」
「じゃ、手。手ぇ繋いでもいい?」
「? 手ぐらいなら別に。ほら」

 普段なら、きめぇとか、うっぜぇとか、そう言って無視するのに試験勉強のためか、素直に坂上が手を差し出した。
 え、これ、掴んで、いいの?
 いつも通り無視されるかと思ったのに、差し出された坂上の手を見てこくりと唾を飲み込んだ。オレ、まじで、やばいかもしれない。

 白い手、オレより小さくて、どこか子どもみたいな手だ。
 指の表面にある肉刺は、スポーツや勉強を頑張ったからじゃなくて、ゲームをプレイしすぎて出来たものだ。
 不健康そのものの手の筈が、オレにとっては可愛いものに映るから恋って不思議だ。

「じっと眺めてねぇで掴めっての」
「うわぁぁっ! こ、心の準備がいるんだよ坂上!」

 オレ、ね、まじで色々準備しないと坂上のこと襲っちゃいそうで、それが本気で怖いから触れるのを躊躇うのに、当人は気にせずガッと、オレの手を掴んでしまった。
 たまに、坂上ってオレが惚れてる事を知ってて、こんな風にするんじゃないのかって思う瞬間がある。
 まあ、坂上がそんな小悪魔みたいなこと考える筈ないんだけどね…!

「うお、神原の手なんか硬いな、骨?」
「(うぁ、ぁ、やば、まじ、ちょっと…!)」
「俺の手、ゲームで肉刺できてるからな。おまえの手、なんか綺麗だよな」
「さ、坂上さん……」
「あ?」
「家に来てもいいから、手、離してください……!」

 やったー! なんて、無邪気に喜んでいる坂上を見て、オレは机に突っ伏するしかできなかった。
 まじで坂上、可愛い、でもまじ小悪魔。



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