ふわりと風に靡く茶色の色素が入った髪がかっこいい。 優しいのに、涼しげな目元をしてて、濃い茶色の目がかっこいい。 すらっとしてて細身なのに、実は腹筋割れててかっこいい。 細いのに、骨ばってて硬くて大きな掌がかっこいい。 賞賛の言葉がオレを囲んでいる。 甘美な響き、誰だって褒められるのは悪い気がしない筈だ。 女の子がオレの見た目しか見てなくたって、オレだって女の子の可愛い部分や、媚びてくる部分や、ちょっとえろいところしか見てないからお相子だ。 可愛い子は好きだ。美人も好き。年下も、同級生も、お姉さんも、誰だって好き。 オレのことを好きだっていう目には欲望しか孕んでないけど、高校生にとってはそんな薄さでちょうどいい。 そう、君に会うまでは思ってたんだ。 「坂上建一。趣味はゲーム、好きな教科は科学。去年は3組でした。よろしく」 一目惚れ。それも、同じ男に。 美人でもない、可愛くもない、黒髪は野暮ったくて、顔は自己紹介を面倒くさそうに告げているのに、それでも。 好きだと、思った。その感覚に理由はいらなかった。 ただ、困惑は、したけれど。 「神原ァ、数学のプリント見せて。昨日徹夜でASPAしちまって、くっそ眠ィ」 「うん、わかってるって!」 秋も深まっている10月下旬、相変わらず可愛い可愛い坂上はゲーマーである。 最近流行り始めているネットゲーム、ASPAに坂上は夢中だ。学校にはPSPやDSを持ってきている姿も普通のものである。 坂上建一、高校二年、170cmにいくかいかないか程度の身長の彼は、上履きの踵の部分を踏みつぶし、椅子に体育座りをしカチカチと無機質なボタンを押している。 男子校の風袋学園でも、坂上は変わった人間だと思う。 男ばかりの学園で、性格が多少変な人間は多いけど、間違いなく坂上は見た目は普通なのに、中身はゲーマーでおかしい。 伏し目がちの目をじぃっと眺める。ゲームの画面に向かって視線を向けている坂上は無防備で、可愛い。 椅子の背もたれの部分を抱え込み、真正面から坂上を眺める。 家からあまり出ないせいで白い皮膚、セットもしない髪の毛、徹夜のせいで少し目は赤い。 折角用意した数学のノートの存在も忘れてしまったのだろう。 ゲームのことは忘れないのに、薄情者め。 「坂上、ちゅーしていい?」 「なんで」 「したいから」 「男同士じゃん」 「オレ、坂上のこと好きだよ」 「ふぅん」 「……聞いてますか」 「うん」 「……数学のノート見せなくていい?」 「うん」 「ゲーム楽しい?」 「うん」 「オレのこと好き?」 「うん」 「ちゅーして、」 いい? と、お決まりの言葉になったそれを言う前に、ゲームを終わらせたのか坂上が顔を上げた。 「神原のこと好きだからノート写していい?」 「……いいに決まってんだろぉおおお!!」 「……おっまえ、マジちょろいな」 ははっ。と、笑った坂上を見てきゅんと胸が締め付けられる。 ああ、可愛いな。 可愛くないし、女の子じゃないし、ゲーマーだし、オレの言ってる言葉全部冗談だと思ってるけど、やっぱり、坂上が好きだな。 「ほっぺにちゅーは?」 「女にしてもらえよ、かっこいいんだから」 そう言いながら笑う坂上は残酷だけど、可愛くて。好きだよと、オレはもう一回言うんだ。 |