ふわりと風に靡く茶色の色素が入った髪がかっこいい。
 優しいのに、涼しげな目元をしてて、濃い茶色の目がかっこいい。
 すらっとしてて細身なのに、実は腹筋割れててかっこいい。
 細いのに、骨ばってて硬くて大きな掌がかっこいい。

 賞賛の言葉がオレを囲んでいる。
 甘美な響き、誰だって褒められるのは悪い気がしない筈だ。
 女の子がオレの見た目しか見てなくたって、オレだって女の子の可愛い部分や、媚びてくる部分や、ちょっとえろいところしか見てないからお相子だ。

 可愛い子は好きだ。美人も好き。年下も、同級生も、お姉さんも、誰だって好き。
 オレのことを好きだっていう目には欲望しか孕んでないけど、高校生にとってはそんな薄さでちょうどいい。
 そう、君に会うまでは思ってたんだ。


「坂上建一。趣味はゲーム、好きな教科は科学。去年は3組でした。よろしく」


 一目惚れ。それも、同じ男に。
 美人でもない、可愛くもない、黒髪は野暮ったくて、顔は自己紹介を面倒くさそうに告げているのに、それでも。
 好きだと、思った。その感覚に理由はいらなかった。
 ただ、困惑は、したけれど。



■ □ ■



「神原ァ、数学のプリント見せて。昨日徹夜でASPAしちまって、くっそ眠ィ」
「うん、わかってるって!」

 秋も深まっている10月下旬、相変わらず可愛い可愛い坂上はゲーマーである。
 最近流行り始めているネットゲーム、ASPAに坂上は夢中だ。学校にはPSPやDSを持ってきている姿も普通のものである。
 坂上建一、高校二年、170cmにいくかいかないか程度の身長の彼は、上履きの踵の部分を踏みつぶし、椅子に体育座りをしカチカチと無機質なボタンを押している。

 男子校の風袋学園でも、坂上は変わった人間だと思う。
 男ばかりの学園で、性格が多少変な人間は多いけど、間違いなく坂上は見た目は普通なのに、中身はゲーマーでおかしい。
 伏し目がちの目をじぃっと眺める。ゲームの画面に向かって視線を向けている坂上は無防備で、可愛い。

 椅子の背もたれの部分を抱え込み、真正面から坂上を眺める。
 家からあまり出ないせいで白い皮膚、セットもしない髪の毛、徹夜のせいで少し目は赤い。
 折角用意した数学のノートの存在も忘れてしまったのだろう。
 ゲームのことは忘れないのに、薄情者め。

「坂上、ちゅーしていい?」
「なんで」
「したいから」
「男同士じゃん」
「オレ、坂上のこと好きだよ」
「ふぅん」
「……聞いてますか」
「うん」
「……数学のノート見せなくていい?」
「うん」
「ゲーム楽しい?」
「うん」
「オレのこと好き?」
「うん」
「ちゅーして、」

 いい? と、お決まりの言葉になったそれを言う前に、ゲームを終わらせたのか坂上が顔を上げた。

「神原のこと好きだからノート写していい?」
「……いいに決まってんだろぉおおお!!」
「……おっまえ、マジちょろいな」

 ははっ。と、笑った坂上を見てきゅんと胸が締め付けられる。
 ああ、可愛いな。
 可愛くないし、女の子じゃないし、ゲーマーだし、オレの言ってる言葉全部冗談だと思ってるけど、やっぱり、坂上が好きだな。

「ほっぺにちゅーは?」
「女にしてもらえよ、かっこいいんだから」

 そう言いながら笑う坂上は残酷だけど、可愛くて。好きだよと、オレはもう一回言うんだ。




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