オレの想いは坂上にとっては汚くて、重いのではないだろうか。
 そう思い、坂上を視界から外そうとする度にいつの間にか坂上はオレの隣で座っている。馬鹿だと言いながら、徹夜明けの眠そうな目で。
 オレはこういう時に痛感する。

 だから坂上が好きだ。
 だから、告白できない。

 今日は一日中オレの部屋に閉じこもっている気なのか、坂上はパジャマ用に持ってきたジャージのままだ。
 だらだらとゲームのコントローラーを握りしめダンジョンを進んでいく。
 欠伸を噛み殺し、目には涙をためながら画面からは目を離さない。昨日のことなんて、全然覚えていないんだろうなぁ。
 ぼんやり考えながら坂上を見ていると、眠そうな顔で坂上はオレに視線を向けた。

「おまえ、眠くねぇの神原」
「んー。元々眠り浅いんだよねオレ」
「いーなー。俺どっちかといえばぐっすり寝たい系。でも寝たくない」
「ゲームばっかりしてると体でっかくなんないよ」
「お前母ちゃんみたいなこと言うなよ……」

 そう言いつつ坂上はべろんとめくれていたベッドの掛け布団をとり、自分をぐるぐると巻いて床に寝転がった。
 か、可愛い…! なんだその姿勢…!
 子どものようにうつらうつら首が動いているのにコントローラーだけは離さない。
 布団にくるまっている姿は芋虫の様なのに、どうして好きな相手だとこんなに可愛く見えるのか。

 ど、どうする、オレ。
 昨日はへたれ全開だったから、ここで、オレは、あれだろう、なんか、すべきだろう。でもなんかって何だ、ナニ? え、ナニ!?
 触っていいの!? こんな可愛い生き物オレなんかが触っていいのか!?
 オレなんかが、そういう意志を持って坂上に触ったらこいつが汚れてしまうんじゃないのか。でも、オレは。

「神原、これどうやって倒したっけ……神原? ……おまえ、何してんの」
「ううう、腕立てを!」
「あほか。はいコントローラーパス」

 何この小悪魔怖い。
 投げつけられたコントローラーを握りしめ、オレは溜飲するしかない。
 坂上は欠伸を一つこぼし、目をこすりながらオレが進めていくゲームを見ている。うーん、今更だけどここで一度寝かしておこう。
 オレは坂上が好きだから甘やかしたいし、二人きりのこの状況はすっげぇ嬉しいけど、やっぱり勉強もちゃんと教えないとだめだ。

 もともと坂上はそんなに覚えは悪くない。ただ面倒くさがりで、ゲームが好きで勉強に対し情熱はない。学生はそんなものだろう。
 ただ坂上の場合ゲームのしすぎて出欠もあまりよくはなく、テストで少し点数を稼がないとヤバイ。
 うとうとしている坂上を確認し、オレはコントローラーを預かったままプレイを続ける。

 布団にくるまっている坂上は可愛い。可愛いし、甘やかしたいし、このまま閉じ込めておきたい。でも、それは坂上のためにはならない。
 手を伸ばし、そっと頭を撫でてやれば小さな寝息が聞こえてくる。
 普段は喧しいし、ゲームのことしか言わないのに寝るときと食う時は大人しい。
 ある意味凄く男らしい坂上なのに、オレはそれでも、好きなんだ。

「好きだよ、坂上」

 起きてる時も寝てる時も吐きだす言葉に坂上は反応を見せない。
 それでいい、それが悲しい。だけど、今は別にいい。未来も別にいい。
 オレは坂上と離れることが、嫌われることが一番怖い。セックスしたい、キスもしたい、抱きしめたい。けど、その代償に失うものが大きすぎる。

「(――無防備め)」

 テレビから聞こえてくるゲームの音は間抜けなもの、聞こえてくる寝息はオレの心臓をかき乱す。
 掌に優しく伝わる坂上の髪の毛の感触に、抑えきれず髪の毛にキスをした。
 寝てる時ぐらい、皮膚にちゅーしたいけどこれが限界だ。

 たぶん、頬でも、首でも、額でも。皮膚に触れたらオレはきっと。


「……あーあ! 坂上が起きた時のためにノートもう一回見るか…」

 大きな声で奮起する。自分をごまかすために。誤魔化しきれない感情を見ないために。それしか今は、出来なかった。



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