なんつーか、気まずい?
 おれってこう、率直に言ってしまうタイプだけど、流石に「おれって迷惑じゃないですか?」は、面と向かって言えない。
 オーナーと親しげに話してた先生、アパートでぶっきらぼうな先生。
 そりゃ……昔の友達と会えばどの年代もテンション上がると思うけど、見せられた方はちょっと、凹む。

 それに、もしおれの本音を言って、この生活が崩れたらどうしたらいいんだろう。
 この生活を知っているのは先生達と、和泉だけだ。
 和泉は話しても心配そうにするけど、基本的に放っておいてくれる。たぶん、おれの扱いを知ってくれているんだ。

 和泉だって、大変なのに。

 この学校にいる不良の一人、志岐伊織センパイに和泉は惚れていた。
 でも、志岐センパイが好きなのは政哉センパイ。センパイは言わないけど、たぶん、センパイも志岐センパイが好きだ。
 おれは、何も出来ない。
 和泉も、政哉センパイにも、何も出来なくて話を聞くだけだ。

 つくづく、おれって頼りないなぁ。
 頭も悪いし、運動もそんなにできないし、金を稼ぐ方法もそんなに知らない。
 先生に助けてもらって、バイト代を親に届けることしか出来ていない。
 早く大人になりたい。そうすれば、自立できる。

「おいこらテメェ」
「いたっ」
「御丁寧にてめぇの頭に知恵を教授してやってるのに、目ェ開けたまま寝るな」
「おれだって考え事はしますからね! 寝てないよ!」
「考え事ォ? ……前みたいに、ファーストキス云々じゃねぇだろうな」

 あ。すっかり忘れてた。
 もっと根強く覚えているものかと思ったけど、別の事を考え始めたらおれの頭は素早く切り替わるようだ。

「あれだけ言ってたのになんだかんだ忘れてるのかよ」
「そうみたい、ですね。忘れてた」

 だって、今はそれ以上におれは先生に言いたいことがある。
 前はそのことについて言いたかったけど、今は違う。

 先生、先生はおれといて、楽しいの?
 おれはね、先生に助けてもらって嬉しいよ。
 結局この行動が同情なのか、正義感からなのか、気まぐれからなのか、わからない。
 先生の行動、おれは嬉しかった。親の苦しむ顔は、もう見たくなかったから。

 でも、先生は?

 ねえ、先生。
 先生、本当はおれ、邪魔じゃないのか。
 おれ、迷惑しかかけてない。
 先生は何も言わない。言わずにおれをここにおいている。

 最初の頃はあまり覚えなかった感情。
 ねえ、どうしておれを、誘ったの。

「羽月?」
「……なんか、気分悪いです」
「……おい、お前顔色悪いぞ」
「平気ですよ」
「平気って顔かよ。こっち向け」

 平気だよ。平気だから。

「――気ィ、使わないでよ……」

 惨めになるんだ。
 先生に気を使わせて、迷惑かけて、それでも抜け出せない、自分に。



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