リュトは、おれが嫌いになって、邪魔になったから捨てたんだって。
 旅の間そんな事ばかりを考えていた。何度も足がすくんだ。動けなかった。でも、会いたかった。
 単純明快、ただ、それだけの感情でおれはここに来た。
 漆黒の搭が空と大地を繋げていた、忌まわしき魔王の土地。だだっ広い草原に変化したそこを双眸に納め、おれは、黙することしかできなかった。

 色んな事があったんだよ、リュト。
 リュトと離れているとき、路銀を稼ぐための方法を知った。雑賀国が想像よりも大国だって知った。
 勉強は役立って、おれのかじり程度での知識でも、おれの仲間みたいな人たちは感謝してくれた。字を知らない人が、覚えていく。一人じゃなくなっていく。
 おれはそれが嬉しくて、さびしかったよ。
 リュト、リュトはどうだったんだ? さびしかった? 何百年も生きてきて、一人きりで、魔王で。
 おれは、リュトの血肉になれればいいって思ってたよ。リュトにもそんな風に言った。だって、魔王だし、食われるって思ってたから。

 でも、違うよな。一緒に生きていたいよな。
 おれは何でも良かったけど、リュトはたぶん違ったんだと思う。

 広い草原、おれはここで生きていた。リュトはここで生きていた。
 青空を穿つ漆黒は姿をすっかり消してしまっている。間近に足を運べば、やっぱり悲しかった。
 会いたかった。会えないのだろうか。ずっと、ずっと旅をしてきた。ここまでやっと戻ってこれた。だって、離れたくなかったから。


 好きだ。


 リュト。おれは人間だよ。一生一緒には生きられない。
 ジジイになるし、中年になったころは禿げてるかもしれない。それでもリュトは変化をせず、ずっと、魔王として生きていくんだろう。
 でも、そんな一緒に欠片でもおれがリュトの傍で生きていたのは、事実だ。

「会いにきたんだ。言いにきたんだ。ここまできたんだ」

 おれがここに戻ることをリュトは認めないかもしれない。それでも、ここまで来た。
 今度こそ、ウザがられるかもしれない、今度こそ、殺されるかもしれない。それでも言いたかった、伝えたかった。

 ありがとう。
 大好きだ。
 勝手にさよならしやがって。
 傍にいたい。

「リュト」

 風が頬をなでる。この場にいないことを痛感し、おれはそのまま踵を返した。

「由良」

 世界の中心にいた黒衣は、あの頃と一切変わらなかった。



back : top : next