「いや、別に」
「……」
「大学に行ったら先輩忙しいだろうし、おれも三年で忙しいし。大学はたぶん離れるけど……それでもこうして会えますし」
「待て。おい、色々言いたいけど……おまえオレと一緒の大学行かねェの?」
「え、あぁ……大学はバスケで有名なあの大学に行こうかと。気になってる学部もあるし」

 とん。
 優しく触れた手が、そのままおれをソファの上に押し倒した。
 は? 間抜けな声が漏れた瞬間、噛み付くようなキスをされる。
 全てを奪うような、強引で、力任せ。いっそ、暴力と称しても構わないほどのものだった。
 無理矢理な口付けに首を振っても意味はなく、逃げようと押し返しても意味はない。唐突な行動に頭が真白になる。

 なんだよ、何が原因なんだよ。
 大学の事? 離れるのがさびしくないこと?
 仕方ないだろ、本心なんだから。
 だって、さびしさを覚える前に志岐先輩はいつだって、おれにほしい言葉を、行動を、くれるんだから。
 ほしいなんて思わせないじゃないか。ほしいなんて、言わせないじゃないか。これだけで充分すぎるんだから、これ以上何を求めるんだよ。

「はぁ…んっ、はっ……」
「――えろい顔」
「なん……スか、もう…!」
「むかついたから。バスケで有名な大学って、藍田も行くだろ」

 ……そこ?

「裕人は…関係なくないッスか?」
「あるんだよ。政哉もな、オレを選べっつの!」

 無茶苦茶だ。横暴な言葉に唖然とすれば、ぐりぐりと何かを誤魔化すように志岐先輩はおれの頭を撫でた。
 その手のせいで顔は見えなくて、でも、窺うように視線を伸ばせば先輩は居心地悪そうにおれに視線を預ける。

「一緒に大学通いたいだろ、ばぁか」

 幼馴染、選んでんじゃねぇよ。
 付け加えて言われた言葉に、おれは何も言えなかった。
 別に裕人を選んだわけじゃなくて、興味があって頭のレベルが丁度いい学校がそこだっただけだ。ただ、それだけ。
 先輩みたいに頭よかったらおれも先輩と一緒の大学を選んでる。

 子どもみたいな我侭、裕人に対しての嫉妬。どうしようもない、先輩だ。そして、おれも。
 そんな些細な一言で、もっと勉強しなければ。そう、思ってしまうのだから。



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