黒の搭の中にいるとリュトが色々教えてくれる。薬学、魔法学、地学、語学、色んなものを。
 おれの頭の中は空っぽ同然で、教えてくれるものは一気に吸収した。真白なキャンパスにいろんな色を乗せて完成させるように。
 リュトはおれに趣味を持って欲しいらしい。その方が味が甘くなって美味いそうだ。
 おれはリュトに食べられて血肉になる為にここに来たけど、リュトはおれに勉強を教えるだけだ。不思議な関係。

「へえ、じゃあ三百年前に領主様が交代したんだ」
「交代と言うか…まあ、引き摺り下ろされたんだ。クーデターだな。当時の政党に不満を持っていた第三皇子が皇帝を殺した。昔は雑賀という国じゃなかった」
「ふぅん。歴史書なんて読んだことないから知らなかった」

 300年前だから普通にそんな話は転がってるだろ。と、言われたけどおれは去年のことも深く考えられないからわからない。
 生贄制度もその頃に変わり始めたらしい。リュトは歴史書を指でなぞり、そう言った。
 その横顔が妙に寂しそうだったけど、おれには理由が分からない。長生き過ぎるリュトの感情を理解できる存在はいないだろう。

「リュトはどうしてそんな長生きなんだ?」
「魔王だから」
「だったらおれも魔王になればリュトの世界を知れるかな」

 驚いた眼差しがおれに向かった。だって、一緒に生きたらリュトは寂しくないよ。おれも、寂しくない。
 親が死んで、ゴミみたいな眼差しでずっと見られてた。生贄に選ばれて、誰かの役に立つのかな。って、思った。
 おれは魔王の血肉になって、死んで、でも、魔王の中で生きるんだって思ってた。でも、魔王は、リュトはおれを食べない。傍において、勉強まで教えてくれる。
 結局誰の役にも立ってないけど、こうしておれに一人じゃない生活を与えてくれたリュトは大事な奴だ。
 何かの役に立ちたいって思うのは、普通だ。

「……バカだな、由良は」
「リュトに比べたら人間なんて馬鹿ばっかりだ」
「そうかもなぁ…」

 そう言って、リュトはおれの頭を撫でた。
 リュトはおれの言葉に返して返事を返すことは無かった。



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