搭の中は村で住んでいるよりも断然快適だった。熱くもなくて寒くもない。高所恐怖症じゃない人間と魔族からすれば最高の物件である。少しだけ薬臭いけど、その辺りは村で放牧している獣の匂いよりもましだ。
 リュトは魔王だけど魔法使いみたいなことをする。薬を調合して、反応を見るのが好きらしい。誰かの役に立つから行うのではなく、趣味で反応を見ることが好きらしい。
 変わった趣味だといえば、おれの趣味を尋ねられた。無趣味だと言えばおまえの方が変だと言われた。

「由良は変わっているな。普通はオレを見れば逃げるか殺そうとするぞ」
「ふぅん。でもなぁ、おれ魔王に…リュトに殺されると思ってここに来たからさぁ、気が抜けてるっていうか」

 想像ではすでに腹の中にinしちゃってるわけだ。でも、おれはここにいてリュトと話していて、リュトの薬の調合を見てそれを学んでいる。
 リュトがごろごろしているだけなら薬の作り方でも学んでオレを手伝え! と、無理矢理傍に置いたからだ。居候となっているおれとしては、家主の言葉に従わないわけにはいかない。なによりも暇だったし。

「人間はもっと向上心を持て!」
「魔王の台詞かよ」
「阿呆か。そういう人間のほうが活きがいいんだよ」

 言いながらリュトはおれに顔を近づけて触れるだけのちゅーをする。
 後頭部を撫でられ、髪を掴まれて無理矢理上を向かされる。痛いと悲鳴を零しかけた唇の隙間にぬるりと舌が入り込んでくる。魔族の舌も温かいんだな。と、感想を抱けばちゅっと、水の音が鼓膜に触れる。
 片手だけがおれの頭を、体を、支えている。唇の結合部からはおれの息と、リュトの舌が絡まってエロイ音を立てている。
 エロ本のちゅーみてぇ。馬鹿な事を考えながら舌を絡めればぺろりとその上をリュトの舌が撫でた。これはぞくぞくして、変な感覚になるけど好き。

「んぅ、ふ…りゅ…」
「ふっ……。あぁ、やっぱり甘いけど一味足りない。もっと甘くならねぇかな、由良」

 リュトはおれの口の中が甘くて好きだ。と、いうか人間のおれぐらいの年頃は熟し始めで青味が残ってそれがリュトの好みらしい。リュトのちゅーの後はいつも体がすこしだるくて力が抜ける。生気を啜っているからだと前説明された。
 唇の端についている唾液をぺろりと舐めてみる。甘い味なんて全然しない。何が楽しいのか良く分からない行為だ。
 気持ちいいけど、した後は唾液がべたべたで気持ち悪いだけだ。味のするリュトが少し羨ましい。

「おれは唾液の味しかしないから、リュトはそれでいいじゃないか」
「……じゃあ、飴でも食って口吸ってやろうか?」

 ニッと笑ったリュトは、おれの口の端についていた唾液をぺろりと舐めた。



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