「と、いうわけでこいつはオレのだから。手ェだしたらぶっ殺す」
「どさくさで腰撫でるなセクハラがぁぁぁぁ!」

 晴れ渡った空の下、学校内でどこよりも空に近い場所、屋上でおれと、志岐先輩と、和山先輩と…何故か。
 悠一に春樹に……和泉までいた。
 誰が呼び出したかなんて、そんなものおれの腰に抱きついている男しかいない。
 おれも大抵無神経だって自覚したけど、この男はどこまで無神経なんだろうか。それでも和泉は、どこか、嬉しそうだったけど。

「政哉先輩」
「い、ずみ」
「……良かった、ですね」

 ああ、もう。おれは、本当、和泉には一生敵わないって思う。
 ふんわり笑った顔は、志岐先輩のことは諦めている顔で、一歩先に進んだ顔なのだろうか。それとも、押し殺している表情なのだろうか。
 どちらにしても、かっこいいって思えた。
 どうして、おれの周りって男前が多いのか……不思議だ。

「センパイ…! センパイってやっぱり志岐センパイが好きだったんですね!」
「春樹お前テンション高いな…」
「オーナーと和山センパイと話してたんです!」
「ちょっと待て、お前……気づいてたの?」

 和山先輩やオーナーは仕方ないけど、なんで、春樹がそういう話をするんだってことだ。
 おれは春樹に対しては何も言ってない。和泉が誰かに話すタイプだとは思えない。
 和泉の付き添いってだけでここに来たのかと思っていたけど、春樹もおれと志岐先輩のごたごたを知っていたのだろうか。
 慌てて聞きだすおれを見て、春樹は首をかしげた。
 ああお前っておれと同じ平凡顔だけど、仕草は何だか可愛いですね!

「政哉センパイ見てたら、わかりましたよ?」
「……おれってそんなバレバレ、なのか?」
「うん。顔に出てる」

 死にたくなった。
 誰に何を言われても、そこまでショックじゃなかったけど…春樹に言われるのはキツイ。
 だって、こいつって素直を地で進むような性格だ。ああああ嘘もう、嫌だ。
 おれってそんなに周囲から見て分かりやすかったのか?
 確かに、おれが先輩を好きだって自覚する前から、和山先輩や、裕人、悠一は突っついていたけど。でも、流石に、そこまでとは…。

 慌てたように「顔にじゃなくて態度にですよ!」と、フォローにもなってないものを言われて一層落ち込む。
 そんなおれに志岐先輩と悠一は爆笑するし、和泉は半眼で春樹を見るし、和山先輩は我関せずだ。そこには、以前と変わらない世界があった。
 おれが怖くて踏めこめなかった世界。
 一歩踏み込んでも、変わったようには見えない。
 おれがいて、先輩がいて。皆がいる。

 体を二つに折り、腹を抱えて笑っている志岐先輩を睨みつける。
 くそ、春樹が気づいているぐらいだから、おれが自分で気づいていなかった時から、この人は好かれているって知っていたんだ。
 ずるい。
 おれはイロイロ悩んで、イロイロ考えてたのに、志岐先輩はこんな世界を知っていた。睨みつければ、更に爆笑された。
 誰かこの男の頭の上に隕石を落としてください! とびきり大きいものを!

「笑いすぎッス!」
「わりーわりー」
「ムカツク…!」

 だって、それってなんだか結局おれの一人相撲で、おればっかりが馬鹿みたいじゃないか。
 悔しくて睨みつければ先輩は笑った顔を変化させ、苦笑をおれに見せて頭に手を乗せた。優しい感覚は、すぐに全身に広がった。

「嬉しかったんだよ。それに……まさか、姉ちゃんにまで言ってくれるって思わなかったし」
「……」
「政哉のおかげで、お前の家に遊びに行ってもイチャイチャできるしな!」
「エロ思考かよ!」

 屋上からはおれの怒号、志岐先輩の爆笑、和山先輩の寝息、悠一の笑い声、和泉と春樹の慌てた声が広がった。
 一歩踏み出した世界。先輩とおれが目の前で手をつなぐことを許した人。
 柚木川の夏空は、きっともうすぐ見えてくる。

 カラリと晴れた空の下、梅雨の香りと夏の香りがおれたちを包み込んでいた。



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