柚木川二大不良登場。しかも、最悪の形で。
 和山那都は世にいうクォーターってやつらしい。イギリス人のじいちゃんか、ばあちゃんがいると噂で聞いた。こうして見ると目の色が明らかに日本人には似合わない色だからその噂には納得するけど、明らかに髪の色は違うだろ。何あの奇抜な色。いや、嫌味なほど似合うけど。
 じぃっと無機質な眼差しがおれに向かい、それを受け止めていると和山那都とは真反対の漆黒の髪を持つ志岐伊織が「よぉ」と、片手を上げてこっちに来いという態度を取った。

「……どもッス」
「悪ィな。おい和山、あんま見るなよ。おまえ見てるだけでも睨んでるように見えるんだからな」
「……ああ」

 少し寒い風を体に浴びながら、距離を測るように志岐伊織に近づけば風上から煙草の香りが届いてきた。おれの周りに煙草を吸う人間はいない。母さんも父さんも、どちらかといえば酒のほうが好きな家系だ。
 幼馴染の裕人はスポーツマンで、割とそっち系の友達が多かったためか、こうもあからさまな不良とはあまり関わった事がなかった。今更だけど、おれってすげぇ面倒なことに首突っ込んでないか…?

「おら、こっち来いよ」

 横暴不遜な態度で煙草の香りを漂わせている眼前の不良。それに対し、素直に従っているおれ。一体この状況のどこに恋人同士の甘い香りが漂うのか甚だ疑問だ。まあ、そんな関係になるって考える時点で吐気がするが。あくまでおれらはノーマル、志岐伊織の協力者でしかなく、被害者でしかなく、可哀相なスケープゴートだ。
 手すりに背を預け、いちごオレを飲んでいる和山那都はぼぅとした眼差しで、相変わらずおれを品定めするかのように眺めていた。
 この二人の関係は詳しくは知らないが、噂で聞くものは中学時代からよく一緒に行動していたらしい。と、いうことと、どのグループにも属さないくせに、何十人に囲まれても二人がいればべらぼうに強く、一気に五十人を沈めた記録すらあるそうだ。
 一体何が良くて同じ男を、しかもそんな噂が存在する男を好きになるのか疑問だ。若い頃は多少やんちゃして火傷した方が良いらしいけど、どう見てもこいつ等に関われば火傷どころじゃなくて、皮膚がただれてしまいそうだ。
 そんなことを考えつつも、体は防衛本能に従う辺り、へたれ。なんて、世間で言うのだろう。盛大に吐き出したかった溜息は胃の中に沈殿し、重い鉛のようなものに変化し、一層強い憂鬱さを伝えてきた。

「牧野に協力してもらうことにしたから、顔覚えとけよ和山。おまえ人の顔覚えるの苦手なのにこいつ、無個性だからよ」
「(むこ…っ! このヤロゥ…)」

 おれも確かに個性は薄いほうだけど、誰だってこの二人に比べたら薄くなるっつの! 無神経な志岐伊織の言葉に自然に眉根が潜んでしまいそうになったが、それはなんとか忍耐で耐えた。と、いうよりも伸びてきた二本の腕のせいで一瞬にして思考が攫われてしまった。

「え」

 手すりに背を預けていた和山那都がおれの腰を抱き、立ちっ放しだったおれを強引に座っている己に引寄せた。バランスを崩し倒れそうになるが、がっしり回った腕と、こんな不良に体預けたら死ぬ。と、わけもわからない考えで膝を強かに打つ程度で耐えた。膝の皿が割れるかと思うほど痛かった。



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