なんというか、この状況は誰にとっても意外すぎるものだったんじゃないのか?

「牧野先輩って基本弁当なんですね。俺のとこ、弁当作るの面倒でパンですよ」
「残り物だけどなー。むしろおれはパンの方が羨ましいかも」
「萩センパイ、どうかしました?」
「いやぁ……慣れない光景だなーって」

 食堂の片隅、おれと、悠一と、春樹と、和泉は一緒に昼飯を食べるようになった。
 基本的におれは後輩が好きだ。なんというか、こんなおれでも役に立てるんだ! って、思うから。
 和泉は話していて分かるけど、やっぱり可愛いけど男前だった。
 女の子は大きな胸の子が好きで、少しツンデレがいいらしい。意外にマニアックボーイで笑ってしまった。
 おれ達が話している光景は、どうも周囲の人間からすれば驚くものらしいけど、別に気にする必要はないって思った。

「政哉くん、俺お前の大物ッぷり見た気がする」
「なんで?」
「(志岐先輩も可哀相に)」

 ウインナーに箸を突き刺し、咀嚼していると悠一が盛大な溜息を吐き出した。
 そりゃ、悠一達の気持ちも分かる。
 和泉とおれが和解することなんてありえなくて、絶対にあってはいけなかったから。

 時々、辛そうにおれを見る和泉の目に気づく。志岐伊織との共犯者だってそういう時に思う。
 あいつは今、何をしているんだろう。
 不意にそんなことが頭に浮かんで、首を振って考えをはじき出した。そんな余計なこと、考えなくていい。おれにはもう、関係ないんだから。

 ブーブーブー。

 ポケットの中に入れていた携帯が震える。おれのじゃなくて、和泉の携帯だ。
 オレンジ色のボディカラーのそれを取り出し、ちらりと先生がいないことを確認して和泉は携帯を開いた。
 むにむにと、ボタンを押して操作していた彼はふと、手を止めてスライド式の携帯をポケットに片付けた。
 携帯から視線を外した彼はニコリと微笑み、すみません。と、言葉を放つ。

「クラスの奴に呼び出しされちゃって。俺もう行きますね」
「おれも行こうか?」
「羽月は牧野先輩たちと飯食べてろよ。じゃ、失礼します」

 去っていくハニーブロンドを視界に入れ、弁当に視線を移せば盛大な溜息が悠一から零れていた。
 喧騒が響いている中でも、特に喧しく耳に入った気がした。

「政哉ってさ、考え無しなの? それとも実は腹が黒いわけ?」
「何で?」
「和泉と……あー、春樹くんの前で言うのもあれだけど」

 言い辛そうにしている悠一が言いたいこともわかる。
 でも、おれも和泉も、お互いにあの日言いたい事を言い合った。

 昼休みが終わって、授業をサボって、おれは和泉の本音を聞いた。そして、和泉は同時におれの本音を聞いていた。
 志岐伊織に関わってしまって、傍にいて、感じたことをおれはあの日言っていた。
 和泉は切なそうに笑って、大嫌いだと言ったおれに「そうですか」と、言葉を零した。志岐伊織が好きな和泉にとって、そう言ったおれはきっと安全パイなんだろう。
 だからもう、攻撃なんてしないと思う。

「どうしたよ、悠一?」
「いいやぁ…。和泉も案外可哀相だなーって」
「案外じゃないだろ。志岐伊織のせいでな」

 かっ込むように弁当を食えば、鈍い奴。と、悠一が言った。
 それがどういう意味だったのか、おれは分からなかった。



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